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特集

実は意外と知らない生薬

2017年1月号
実は意外と知らない生薬の画像

生薬は漢方薬の構成成分として用いられますが、生薬の原料となる薬用植物がサプリメントや健康食品などにも配合され、一般市民にも身近なものになっています。しかしながら、いざ生薬とは?と尋ねられたときに、正確に答えられる人は少ないのではないでしょうか。今特集では、意外と知られていない生薬の定義や品質管理、漢方薬や西洋薬との違いなどについて、名古屋市立大学大学院薬学研究科生薬学分野教授の牧野利明氏に解説していただきます。

生薬の定義、薬用植物との違い

普段、何気なく使っている「生薬」という言葉ですが、実はきちんとした定義があります。日本で使用されている医薬品の品質や規格を定めている厚生労働省監修『日本薬局方』(最新版は2016年出版の第17改正)では、生薬のことを「動植物の薬用とする部分、細胞内容物、分泌物、抽出物または鉱物など」と定義しています。この定義だけではイメージしにくいので、実際には「天然から得られる薬用植物、動物や鉱物などの薬用とする部分を、乾燥などの簡単な加工を施してそのまま医薬品として使用するもの」くらいに表現するのが適切でしょう。
医薬品なので、健康食品や薬用植物という言葉とははっきり区別されています。生薬という場合は、おもに薬用植物を原料として『日本薬局方』の規格に基づくように加工された医薬品のことです。一方、薬用植物という場合は、医薬品として使う以外にも、化粧品や染料、農薬などいろいろな用途が含まれます。薬用植物は人の生活に対して何らかの有用な役割を果たす植物であり、それを流通させたり、そのまま使ったりする分には自己責任となります。商品として発売するときにも国はとくに関知しません。
さらに生薬と食品でも、品質確保のレベルに差があります。たとえば、ショウガという植物の根茎は、生姜(ショウキョウ)という名前の生薬(医薬品)として使用され、漢方薬の原料にもなっていますが、同じものが食用としても使われます。生薬としてショウガを使用するためには、『日本薬局方』で規定された正しい植物の正しい部位のものを用いなければなりません。すなわち、ショウガ科ショウガZingiber officinale Rosc.という植物の根茎で、特異なにおいがあって、味は極めて辛くて、6-gingerolという化合物を含有することを薄層クロマトグラフィーで確認できて、重金属などの異物が規定量以下であることを示す、などの品質が保証されていなければなりません。ショウガを食品として使用する場合は、これほど細かく規定されないのはいうまでもありません。
我が国における天然素材の用途は、図1のようになります。生薬は、漢方薬の原料だけでなく、民間薬や伝承薬などの医薬品にも使われます。また天然素材については、食品と医薬品の境界も決められており、それぞれの植物について、これは医薬品でなければだめ、人参のようなものは効能効果をうたわなければ食品でもよいなどのように一覧表になっています。最も新しいのは2015年4月1日に通知された「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」という厚生労働省医薬食品局通知、いわゆる「食薬区分」(表1)です。このリストには234種の植物由来素材と26種の動物由来素材が「専ら医薬品」として収載されています。その数は、『日本薬局方』に収載されている生薬の種類よりも多くなります。

図1 我が国における天然素材の用途

図1 我が国における天然素材の用途の画像
牧野利明著. いまさら聞けない生薬・漢方薬, p40, 医薬経済社2015
表1 食薬区分
   専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト(一部抜粋)
名称 他名など 薬用部位など 備考
アラビアチャノキ    
アルニカ   根皮・全草  
オウゴン コガネバナ/
コガネヤナギ
茎・葉は「非医」
カッコン クズ 種子・葉・花・クズ澱粉は「非医」
サイシン ウスバサイシン/
ケイリンサイシン
全草 (2007年4月まで茎・葉は「非医」)
2015年4月1日改定
判断基準
  • 専ら医薬品として使用実態のあるもの
  • 毒性、毒劇物を含むもの(自然毒を除く)
  • 麻薬、向精神薬、幻覚作用のあるもの
  • 処方箋医薬品
※「非医」とは、医薬品的な効能効果を標ぼうしない限り医薬品として判断されない、ということを指します。
牧野利明著. いまさら聞けない生薬・漢方薬, p24, 医薬経済社2015

生薬に規格が必要な理由

生薬に対して品質や規格が厳格に定められている大きな理由の1つとして、医薬品というのは一般の人たちが内容を理解しがたいものだからです。植物の根や茎、葉っぱだけを見てその植物名を答えられる人はほとんどいません。それに加えて、医薬品は食品と違って効能効果をうたうことができます。そこに付加価値があるので、値段も高く売ることができます。値段が高く売れるということは、粗悪品や偽物が流通しやすくなることにもつながります。
実際、偽造医薬品は世界中で問題になっています。生薬に限らず薬は錠剤やカプセルになってしまうと一般の人には見分けがつきません。たとえばバイアグラの錠剤1つをデンプンなどで薄めて10個に成型しなおすなど、成分は検出されても含有量は少ない製品が出回ることがあります。世界中で流通している医薬品のうち1割は偽造医薬品といわれます。日本はインターネット上で取引されるものだけなので1%以下ですが、安全すぎる国ゆえに一般の人が商品を信用しすぎてインターネットで買ってしまいます。中国では30%ぐらいが偽造医薬品といわれますから注意が必要です。また、値段の高いほうが品質がよいだろうと考えがちですが、実際は高価なもののほうが粗悪品だったりすることもあります。2013年のアメリカの調査では、値段の高いほうが粗悪品が多かったと報告されています。悪徳業者は裏をかいてくるのです。
ほかにも生薬には、生薬の原料である植物や動物には個体差があって成分含量などが異なる、生薬にカビや虫がわいたり農薬や貴金属に汚染されたりする可能性があるなどの理由で品質を安定させる必要があり、生薬に対して日本政府は『日本薬局方』で規格をつくっています。その規格をクリアしたものだけが、生薬という流通品になります。

西洋薬と漢方薬の違い

生薬というと、日本の漢方医学や中国の伝統医学である中医学で使われるものというイメージがあるかもしれませんが、西洋医学でも今から200年以上前はすべての医薬品が生薬でした。その歴史が大きく変わる契機になったのが、1897年にアスピリンが発売されたことです。紀元前の昔から痛み止めなどに使われていたヤナギの樹皮から19世紀になってサリチル酸が分離され、解熱鎮痛薬として使われました。しか酸が分離され、解熱鎮痛薬として使われました。しかし、サリチル酸には強い苦みと強い胃腸障害の副作用があることが問題でした。そこで、効果はそのままで副作用を軽減させる目的で合成されたのがアセチルサリチル酸、すなわちアスピリンです。このように、生薬に含まれる有効成分が明らかになると、それを純物質として単離精製、あるいは化学合成して、そちらのほうを医薬品として使用するようになり、生薬が使われなくなっていきました。たとえば、ジギタリスという生薬はかつて『日本薬局方』に収載されていましたが、次第にその有効成分であるジゴキシン、あるいはそれをさらに化学修飾したメチルジゴキシンが専ら使用されるようになり、2005年には『日本薬局方』から削除され、現在では製剤名として残ってはいるものの生薬としては全く使用されません。このように、有効成分がわかると生薬が使われなくなるのが、西洋医学の発展の仕方です。
今現在、西洋医学で使用されている生薬は、ウラジロガシ(商品名:ウロカルン)、サキシマボタンヅル(商品名:セファランチン)、メリロート(商品名:タカベンス)、センナ(商品名:アローゼンなど)などわずかです。それらは有効成分がわからない、あるいは未精製でも有効成分の含量を測定することで品質管理が出来る、などの理由で生薬のまま製剤化されて西洋医学の中で使われています。
一方、漢方薬の原料として使用される生薬では、一部では西洋医学的な薬理作用における有効成分がある程度わかっているものがあるものの、ほとんどの生薬において漢方医学的な薬効に対する有効成分を明らかにすることは、後述するように非常に困難です。すなわち、漢方医学では使用される生薬の有効成分がわからないから、現在でも生薬を使い続けている、ともいえます。
漢方医学とは、古代中国大陸における医学理論を日本に導入して、独自に発展させた医学をいいます。日本に導入されたのは紀元5~6世紀で、その後も学問の交流を続け、14世紀頃までは中国大陸と日本で一緒に発展していました。江戸時代になって鎖国が始まると、商品として生薬は中国から入ってきていましたが、学問の交流が少なくなり、生薬の原料も中国から輸入される生薬の代替品を国内で探索したり、原料植物を国内で栽培できるようになったりして、次第に中国大陸の医学とは考え方が分かれて日本化していきました。日本化してからすでに400年ほど経過した今では、現在における中国の伝統医学である中医学と日本の漢方医学は、似て非なるものになっています。世間ではよく誤解されていますが、中医学、朝鮮半島の医学(韓医学)、漢方医学はそれぞれ別々の学問体系で、漢方医学や漢方薬は、日本にしかありません。

漢方薬の有効成分と指標成分

漢方医学的な診断に基づいて使うのが漢方薬です。たいていの場合は生薬単独ではなくて、複数の生薬を配合して使います。それぞれの生薬にも配合理由があり、漢方医学理論でその処方の中でどういう役割を果たしているかがきちんと説明できます。
漢方薬の効能は、「解表」(体内表面の外邪を除くこと)、「清熱」(体の内部の熱を冷ますこと)、「活血」(血の流れをよくすること)、「利水」(体内での水の流れが停滞した状態を改善すること)などと表現します。
そのような作用は、人間が持つ五感で感じることができるものもありますが、それを動物実験や臨床試験で評価することは困難です。たとえば、西洋医学での利尿作用は具体的に尿量を測定することで評価することができます。利水作用は体内での水の流れが停滞した状態を改善するという漠然とした作用を示すだけで、利尿とイコールではありません。
体温が上がることと、体が温まるということもイコールではありません。具体的に体温が上がればよいのですが、血流がよくなるだけでも体が温まると感じることがあり、その感覚は西洋医学ではまだ解明されていません。漢方医学というのは、感覚で効いたか効いていないかを判断する医学といってもよいでしょう。感覚に関する生理学が発展しない限り、漢方薬の有用性・有効性を実証することは困難です。
日本の薬学の祖とされている長井長義は、1887年に麻黄という生薬からエフェドリンという純物質を単離・同定し、その後、中国人研究者がエフェドリンの気管支拡張作用を発見、現在でもエフェドリンは鎮咳薬として使われ続けています。しかしながら、麻黄の漢方医学における薬効は「辛温解表」(辛味により体表部を温め、風寒の邪を汗で体外へ発散させる)という言葉で示され、必ずしも気管支拡張作用という薬理とは一致しません。薬効を実験的に評価できない以上、有効成分を決定することもできません。すなわち、漢方医学では医薬品を生薬のままで使用するしかないのです。
薬学部の学生が学ぶ「生薬学」では、生薬に含まれている化合物について学習します。しかしそれらは有効成分としてではなく、あくまで品質評価に使うためのマーカーとしてです。生薬の有効成分が明らかになっていなくても、その生薬に含まれている特徴的な純物質を指標にして、その含量が一定の範囲になるように保てば、その他の成分についても一定の範囲に収まっているであろうと予想でき、化学的な品質の確保ができます。そのような生薬の含有成分を、生薬学では「指標成分」と名付けています。指標成分はたいてい1個か2個で、ほかの生薬と鑑別できる、その生薬に特徴的な化合物になります。
ちなみに、漢方製剤はメーカーによって生薬の含量や適応が違います。現在使われている医療用漢方エキス製剤が認可されるときに、メーカーによって根拠とする漢方医学における出典が異なっていたのに、そのまま通ってしまったからです。たとえば、医療用の葛根湯エキス製剤は現在20社以上のメーカーから市販されていますが、処方内容は5つのパターンがあります(表2)。エキス剤が主流になった今は、生薬の量を加減するという「さじ加減」ができなくなってしまったので、医師によってはこの患者さんにはこのメーカーの五苓散、この患者さんにはこのメーカーの五苓散などと使い分けています。

表2 医療用葛根湯エキス製剤の構成生薬(1日当たりの配合量)
A社 葛根8g 麻黄4g 大棗4g 桂皮3g 芍薬3g 甘草2g 生姜1g
B社 葛根4g 麻黄3g 大棗3g 桂皮2g 芍薬2g 甘草2g 生姜1g
C社 葛根4g 麻黄3g 大棗3g 桂皮2g 芍薬2g 甘草2g 生姜2g
D社 麻黄4g 麻黄4g 大棗3g 桂皮2g 芍薬2g 甘草2g 生姜1g
E社 葛根4g 麻黄3g 大棗3g 桂皮2g 芍薬2g 甘草2g 生のショウガ3g
牧野利明著. いまさら聞けない生薬・漢方薬, p48, 医薬経済社2015
column

麻黄の有効成分、エフェドリンの副作用

生薬の麻黄は日本では通常の医薬品として流通していますが、その含有成分であるエフェドリンは劇薬に指定されています。重大な副作用としては、エフェドリンのβ受容体刺激作用による心室細動や心室頻脈などがよく知られています。また、大脳に対する直接作用による強い中枢興奮作用もあり、振戦、不眠、食欲不振などの副作用が見られます。中枢興奮作用は眠気防止としての利用が可能で、受験生などが眠気防止を目的に麻黄が配合された葛根湯などを常用すると依存症になるおそれがあります。販売する側は注意が必要です。
さらにエフェドリンを10%以上多く含むものは、覚せい剤取締法により覚醒剤原料として取り扱われます。覚醒剤原料取扱者の資格がない者が麻黄からエフェドリンを単離したり、医薬品からエフェドリンを濃縮したりすると違法になります。エフェドリンは国際オリンピック委員会の指定する禁止薬物リストにも登録され、ドーピングの捜査対象ともなっています。スポーツ選手に麻黄が入った漢方薬を処方するときは注意深い対応が必要です。

生薬の薬効は1つではなく多面的

生薬の漢方医学的な薬効は解明されていないといっても、全くわからないわけではありません。たとえば、大黄は漢方医学でも瀉下薬として使用しますので、瀉下作用の有効成分は、前述したセンナと同じセンノシドです。武田薬品は「タケダ漢方便秘薬」という大黄甘草湯からなるOTC医薬品を販売しており、これにはダイオウ属植物を交配により品種改良し、その根茎中のセンノシドの含有量を多くしたものが使用されています。便秘にターゲットを絞れば、そのような大黄がよい品質であるといえます。
ところで大黄は、漢方医学では活血化瘀薬(かっけつかお)としても使用します。活血化瘀とは、漢方医学における血の流れが悪くなった状態である血瘀を解消する、という意味で、月経困難症や更年期障害などで見られる痛みなどの症状を改善します。大黄が含まれる桃核承気湯や大黄牡丹皮湯は、月経困難症や更年期障害に対して使用しますが、そのときの大黄には活血化瘀作用が期待されます。この場合は、センノシドの含有量が多い大黄は、下痢という副作用を起こしやすいということで、品質がよくないことになってしまいます。すなわち、大黄に含まれるセンノシドは、あくまで西洋医学的な瀉下作用の有効成分であり、漢方医学的な作用を期待するときには必ずしも有効成分とはいえないことになります。活血化瘀作用の有効成分は、タンニン類といわれていますが、血瘀の状態を完全に実験により再現できていませんので、まだ明らかにはなっていません。
麻黄もエフェドリンだけでは説明できません。麻黄の漢方医学的な効能は解表作用です。たとえば、外邪という外から攻撃してくる悪いものが体の体表部を襲ってきた。体表部は鼻やのどの粘膜で、外邪というのはさしずめウイルスや細菌です。それが人間の体の中に入り込もうとしている。それに対して、生体は防御力を働かせます。風邪の場合だと鼻水や咳です。そうやって自然に治しているわけです。風邪をひいたということは、漢方医学的には邪を外に追い出す力が不足していると考えます。その不足している、いわば自然治癒力をサポートするのが麻黄です。体を温めて、免疫力を高めてウイルスを叩くというのが麻黄の効能になります。漢方医学的には、体を温めて汗をかかせれば、汗と一緒に邪が外に出て行ってくれると考えられています。
実際、人間が風邪をひいたときは悪寒がします。悪寒というのは、寒く感じるのでブルブル震えますが、体温は高いのが普通で、悪寒発熱という矛盾した状態です。悪寒がするのは、体温を上昇させるためです。体をブルブルさせることで熱をつくっているのです。でもまだ熱が不足している、さらに体温を上げようという生薬が麻黄です。そのため麻黄が入った葛根湯や麻黄湯は、本来悪寒がしなければ使ってはいけない薬です。熱がすでに38度以上ある人に使うとかえって消耗させてしまいます。従って、けっこうな荒療治ですから、漢方医学で実証という高熱にも耐えられるような体力のある人に対して、葛根湯や麻黄湯を使うことになります。その体温を上げる有効成分の1つは、褐色脂肪組織のβ3受容体を刺激するエフェドリンといえます。
一方、麻黄の西洋医学的な機序は気管支を拡張させて鎮咳作用を示すというものです。この場合の有効成分もエフェドリンです。漢方医学でいう解表作用に近いのは、エフェドリンの体温上昇作用ですが、それだけで説明できるものではありません。生薬の効能は多面的であり、全部が解明されているわけではありません。

「生薬学」は現代科学の学問

このように、漢方薬に配合される個々の生薬の効能は、当然、漢方医学の用語で説明されます。一方、生薬学では違ってきます。
漢方医学は明治時代に公的には廃止になりました。明治政府がドイツ医学を導入したからです。それ以降も漢方薬は細々と使われていましたが、おもに西洋医学的な使われ方でした。当時は西洋医学でも生薬がたくさん使われていました。たとえば、遠志(おんじ)という生薬があります。漢方では肝を鎮める(清肝)効能を持っています。その名の通り、ストレスにやられていろいろな不安を持っている人に遠い志を持てということで、興奮を抑える鎮静作用のために使います。遠志はヒメハギ科ヒメハギ属イトヒメハギの根です。一方、西洋医学で用いるセネガという生薬は、ヒメハギ科ヒメハギ属まで同じです。そのため、遠志はセネガの代用品として用いられていました。セネガは去痰薬ですが、遠志は不安やストレスを鎮める薬です(写真)。漢方薬の原料として使われていた生薬が西洋医学の中に取り入れられて、むしろ代用品扱いされていたわけです。ほかにも、黄連、黄柏は西洋生薬のコロンボ(苦味健胃薬)の代用品、竜胆は同じくリンドウ科で胃腸薬として使われるゲンチアナの代用品でした。当時の『日本薬局方』は西洋医学で用いる医薬品のみの規格を決めていましたので、生薬については西洋医学で使用されるものと、こうした代用品となるものしか載っていません。

写真 遠志とセネガ

遠志とセネガの画像
牧野利明氏提供

このように、生薬学は西洋医学の中で発展してきました。すなわち生薬学は、生薬の品質管理方法の開発、有効成分、作用機序を実験的に解明するという、あくまで現代科学の学問です。そのため、生薬学だけでは漢方薬はわかりません。生薬の効能効果を見ても、遠志は去痰薬としか書いてありませんが、漢方医学では遠志を去痰薬として使うことはありません。麻黄は鎮咳薬です。葛根湯に配合されているときは鎮咳薬でもわかりますが、葛根湯は肩こりや関節痛にも使われるので、その場合は鎮咳薬では説明がつきません。漢方薬は漢方の理論でしか説明できないのです。その点も、生薬学と漢方薬がつながらないところです。
漢方薬は生薬が最小単位です。たとえば葛根湯という処方は、葛根、大棗、麻黄、甘草、桂皮、芍薬、生姜で構成され、それぞれ生薬単位で効能効果があり、それを合わせて葛根湯の効能ができあがります。漢方薬の場合、有効成分や作用機序がわからなくても、臨床試験でプラセボと比較して患者さんに有効性が認められれば「効いた」と証明できます。有効成分や作用機序は次の課題です。臨床薬理学としてはそれで問題がないのですが、基礎薬理学としては納得いかない部分が残ります。

サプリメントなどに配合される「生薬」の問題点

医薬品とは別に、生薬の原料となる薬用植物はサプリメントや健康食品にも配合されています。これらは医薬品である生薬と原料が同じ場合があるため、一緒に扱われてしまうこともあります。しかし、薬局では必ず医薬品とは分けられて陳列されますし、一番の違いは品質面で、前述したように、生薬の場合は厳密な品質管理が求められます。
さらに複雑にしているのが、日本の食薬区分(表1)です。同じ素材が医薬品だったり食品だったりします。たとえば、朝鮮人参、高麗人参、薬用人参などと呼ばれているオタネニンジンの根は、生薬として使われるときは、人参の基原(生薬学独自の言葉で、生薬の原料となる「動植物の正名〔学名または和名〕+薬用部位」で表現される)であるオタネニンジンの根が確認されており、品質が保証されています。健康食品やサプリメントに使われるときはその保証がないので、偽物が流通したり、異物が入ったりすることがあります。どれが粗悪品かを見極めることはなかなか難しいといえます。内容を分析しないとわからないことが多いからです。
また、健康食品と医薬品は、成分の含量まで書いてあるかどうかによっても違います。医薬品の場合は何が何gなど、必ず量まで書いてあります。生薬配合剤、ドリンク剤なども医薬品として販売されているものはすべて中味が開示されています。健康食品の場合は、素材名が羅列されているだけで、量までは書いてありません。効能効果を期待するなら医薬品のほうが副作用などもわかっており、はるかに安心なのですが、一般の人はその辺を誤解していて、医薬品だと危険、健康食品は食品だから安心と思いがちです。
薬剤師さんにはぜひ情報の目利きができるようになってほしいと思います。商品の品質管理がどうなっているかをメーカーに積極的に問い合わせていただきたいです。さらに、そもそも薬剤師さんと患者さんではサプリメントや健康食品の定義が違います。患者さんにとってはヨーグルトや納豆も健康食品ですが、薬剤師さんのイメージは錠剤やカプセルです。そこも患者さんとコミュニケーションをとるときは気をつけなければいけないところです。

column

養命酒の分類は?

テレビCMでもおなじみの日本の代表的伝承薬である養命酒は、食薬区分で医薬品に分類されている生薬が原材料に使用されています。食薬区分制度が出来る以前から酒類として市販されていた関係で、薬局・薬店だけでなく酒店でも販売されていました。その際薬局・薬店で販売する場合は、一般用医薬品(薬用養命酒)、酒店で販売する場合は、酒類(養命酒)と全く同じものをパッケージを変えて販売していました。ところが、酒類では「滋養強壮」をうたえないため、2009年より一般用医薬品としてのみの販売としています。

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