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ハイリスク薬加算の薬歴の書き方は?服薬指導例についても解説
特集

薬剤耐性(AMR)対策 抗菌薬による治療を失ってはいけない

2024年2月号
薬剤耐性(AMR)対策抗菌薬による治療を失ってはいけないの画像

2023年は、新型コロナウイルスをはじめ様々なウイルス感染症の流行が異常な状況でした。その一方で、ウイルス性の疾患に対する不必要な抗菌薬の処方や、不適切な服薬など、抗菌薬の不適正使用によって生じる薬剤耐性(AMR)も問題となっています。薬剤耐性菌による感染症の増加はサイレントパンデミックとも称され世界的にも対策が急がれるなか、AMR臨床リファレンスセンターの都築慎也氏に、AMRの現状や将来に向けた対策についてお話を伺いました。

細菌が薬剤耐性を獲得し抗菌薬が効かなくなるAMR

さまざまな細菌によって引き起こされる感染症に対する治療では、抗菌薬が使用されます。一方で、抗菌薬の使用によって、抗菌薬に抵抗性を獲得した薬剤耐性菌が残ってしまいます。
「AMR(Antimicrobial resistance)」は、細菌が薬剤耐性を獲得して抗菌薬が効かなくなることです。不適正な抗菌薬の使用にともなって増加する、薬剤耐性菌による感染症が問題となってきています(表1)。現在はAMRという用語が一定レベルで浸透してきたためか、薬剤耐性菌や薬剤耐性菌が増加した状況など、より広義なものを指し示すときにAMRという用語が使用されていることもあります。

表1 AMRとAMRによる問題点
AMR
細菌の周りに抗菌薬があると、進化の過程では抗菌薬に抵抗性を獲得した細菌が生き残ることが多い
細菌が抗菌薬に抵抗性をもち、抗菌薬が効かなくなる
  • これを薬剤耐性(AMR:Antimicrobial resistance)という
AMRによる問題点

ウイルスには効果がない抗菌薬をウイルスによる感染症に処方する、処方が適切であっても、服用方法を守らないなどの場合

身体の表面や腸内に薬剤耐性菌が存在する人に対して抗菌薬を使用する
薬剤耐性菌以外の細菌が抗菌薬により死滅する
薬剤耐性菌が身体の表面や腸内で増殖する
薬剤耐性菌による感染症にかかると、抗菌薬が効きにくく、治療が難しくなる
(症状が長びく、入院が必要となる、など)
薬剤耐性菌による感染症が増えると、治療可能な抗菌薬がなくなり、多くの方が感染症で命を落とす可能性がある

厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部 感染症対策課
「抗微生物薬適正使用の手引き 第三版」、都築氏の話をもとに作成

なお、細菌、真菌、ウイルス、寄生虫などの微生物による感染症の治療や予防に使用される薬剤は「抗微生物薬」というカテゴリーで、細菌に作用する抗菌薬は抗微生物薬に含まれます。また、抗菌薬、抗生物質、抗生剤という用語にはそれぞれに詳細な定義がありますが、実際の医療では、細菌に対して作用する薬剤の総称として使用されます。

かつては対処できていた感染症が抗菌薬では治療できなくなる可能性

AMRによって生じる問題のひとつは、これまでは抗菌薬で治療可能であった感染症が、抗菌薬によって治療できなくなる可能性があるということです。初期の抗菌薬として有名なのはペニシリンです。以前はペニシリンで治療できる感染症も多くありましたが、薬剤耐性により、現在ではペニシリンで治療できない感染症が増加しています。
多くの場合、感染症の原因となっている細菌を培養検査によって特定し、抗菌薬に対する感受性(薬剤感受性)を確認して、感受性のある抗菌薬を処方することで細菌感染症の治療として対応可能です。しかし、現在は、以前に比べ新たな抗菌薬の開発が減少しています。未来に向けてAMR対策を実施しなければ、薬剤耐性菌の増加によって有効な抗菌薬がなくなり、感染症の治療に難渋する場面が増加すると考えられます(表1)。

菌血症により多くの患者が死亡している

感染症を引き起こす主な原因菌に黄色ブドウ球菌と大腸菌がありますが、血液中に細菌が入り込んで菌血症を起こすと全身の炎症などにより重症化した結果、死に至ることもあります。厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)のデータや過去の研究の死亡率などから菌血症による死亡数を推定したところ、2017年には菌血症による推定死亡数はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)で4,224例、フルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)で3,915例と、合計で年間約8,000名が死亡していると推定されました。また、抗菌薬を含む抗微生物薬の不適正な使用について対策が講じられなかった場合、薬剤耐性菌による死亡者が2050年には全世界で年間1,000万人に達すると推定されています。

耐性菌が問題になりやすい病院内 市中感染でも抗菌薬の適正使用を

身体状態が比較的良好な方が市中感染をした場合には、感染症による急激な状態悪化や死亡などのリスクは低いと考えられます。しかし、市中感染に対し抗菌薬の不必要な処方や不適切な使用が多いと、耐性菌を増加させてしまう可能性もあります。
一方で、基礎疾患のある患者さん、免疫力の低下した患者さん、長く入院している患者さんなどではどうでしょうか。医療機関の中はこうした方が滞在している割合が多く、また、そこではさまざまな薬剤が使用されています。その過酷な環境でこそ、多くの耐性菌が発生しやすく、よりやっかいな耐性菌が感染を起こす状況も発生しやすいといえます。院内感染は非常に注意が必要といえます。
診療所勤務の医師に対する意識調査(日本化学療法学会・日本感染症学会合同外来抗菌薬適正使用調査委員会)では、2018年に比べ2020年で感冒への抗菌薬の処方割合はやや低くなっていました。一方で、感冒と診断した患者や家族が抗菌薬を処方したときの対応として、「納得しなければ処方」が49.1%、「説明して処方しない」が35.5%、「希望通り処方する」が10.8%で、2018年とあまり大きな変化はありませんでした。
風邪はウイルス性の疾患であるため、抗菌薬が効かないというのは医療従事者であれば知っていることが多いと思いますが、一般的にはまだその認識が十分ではないため、風邪をひいたから抗菌薬をもらいにいく、といったことも起こりえます。細菌が原因ではない疾患に対して不必要な抗菌薬を処方すると、抗菌薬に感受性のある細菌が死滅し淘汰される一方で、薬剤耐性菌が生き延びるという選択圧がかかってしまいます。ですから、明らかにウイルスが原因の風邪だと思われる患者さんに対して不必要な抗菌薬を処方してはなりません。

複数ある薬剤耐性のメカニズム

細菌が薬剤耐性を獲得するメカニズムとしては、抗菌性物質の分解、細菌の構造変化、抗菌性物質の細胞外への排出、抗菌性物質の細胞内の侵入不可などがあります(図1)。

図1 細菌の薬剤耐性メカニズム
細菌の薬剤耐性メカニズムの画像
  1. 抗菌性物質の分解
    抗菌性物質を分解する酵素を産生し、抗菌性物質を不活性化する。
  2. 細菌の構造変更
    抗菌性物質が標的とする部分の構造を変化させることで抗菌性物質の影響を受けなくなる。たとえば、フルオロキノロン系抗菌薬は、細菌のなかにあるDNAを複製する酵素を阻害するが、耐性菌は酵素の構造を変化させ、フルオロキノロン系抗菌薬の阻害作用の影響を防ぐ。
  3. 抗菌性物質の細胞外への排出
    菌中に取り込まれた抗菌性物質を効率よく排出し、抗菌性物質の濃度を低下させる。ある種の抗菌性物質の排出が実施されると別の複数の抗菌性物質をまとめて排出することが可能となることがある(多剤耐性)。
  4. 抗菌性物質の細胞内の侵入阻害
    バイオフィルムによる細菌の表面の保護により、抗菌性物質が菌体の中に取り込まれないようにする。
農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/mechanism.html)
より編集部作成

グローバルアクションプラン その国の医療状況に即した対応

AMR対策の世界的な動向として、2015年に世界保健機関(WHO)の総会で薬剤耐性(AMR)に対するグローバルアクションプランが採択されました。これを受けて、加盟国は自国の行動計画を策定することとなりました。
日本のような国民皆保険制度には国民が医療機関を受診しやすいメリットがあります。しかし、受診のハードルが高い国に比べると、不必要な受診や不必要な薬剤の処方が起きやすい可能性もあります。一方、日本では抗菌薬は処方せん医薬品ですが、国や地域によっては抗菌薬がOTC薬として販売されており、使用量や使用状況の把握が難しい地域もあります。国ごとに異なる医療においては、その状況に即した対応が求められています。

耐性菌の分離率や抗菌薬の使用量を減らす

日本では、まず2016~2020年のアクションプランが策定されました。AMRによる死者数の減少などが分かりやすい指標ではありますが、実際には評価しづらいため、アクションプランでは、特定の耐性菌の分離率に関する目標設定とともに、抗菌薬の使用量の減少が掲げられました。
具体的には、2013年と比較し、「2020年の人口1,000人あたりの一日抗菌薬使用量をおよそ2/3にする」こと、「経口薬(セファロスポリン系、フルオロキノロン系、マクロライド系)の使用量を50%削減する」こと、「一日静注抗菌薬使用量を20%削減する」ことでした。結果的にアクションプランの目標値には達しなかった項目もありますが(表2)、目標設定も高かったため、臨床現場の体感としてはかなり使用量が削減できたと思います。

表2 アクションプランの成果指標:抗菌薬使用(DID)(販売量による検討)
  2013年 2021年 2013年との比較 2020年(目標値)
全抗菌薬 14.52 9.77 32.7% 減 33% 減
  経口セファロスポリン系薬 3.91 2.11 46.1% 減 50% 減
  経口フルオロキノロン系薬 2.83 1.48 43.7% 減 50% 減
  経口マクロライド系薬 4.83 2.72 47.5% 減 50% 減
  静注抗菌薬 0.90 0.89 1.1% 減 20% 減

DID:Defined daily dose per 1,000 inhabitants per day 人口1,000人あたりの1日使用量。

令和5年12月22日一部改正 薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2022」より作成

2020年以降は新型コロナウイルス感染症対策が先行した影響もあり、初回のアクションプランを踏まえて2023~2027年のアクションプランが策定されました。2020年との比較において、「2027年までに人口1,000人あたりの一日抗菌薬使用量を15%、経口薬のうち第3世代セファロスポリン系を40%、フルオロキノロン系を30%、マクロライド系を25%、カルバペネム系の静注抗菌薬を20%削減する」という目標が掲げられています(表3)。

表3 薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2023-2027
アクションプランの成果指標(ヒトに関して)
  1. 2027年のバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)感染症の罹患数を80人以下(2019年時点)に維持する。
  2. 2027年までに黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率を20%以下に低下させる。
  3. 2027年の大腸菌のフルオロキノロン耐性率を 30%以下に維持する。
  4. 2027年までに緑膿菌のカルバペネム(MEPM=R)耐性率を3%以下に低下させる。
  5. 2027年の大腸菌及び肺炎桿菌のカルバペネム耐性率を0.2%以下に維持する。
  6. 2027年までに人口千人当たりの一日抗菌薬使用量を2020年の水準から15%減少させる。
  7. 2027年までに経口第3世代セファロスポリン系薬、経口フルオロキノロン系薬、経口マクロライド系薬の人口千人当たりの一日使用量を2020年の水準からそれぞれ経口第3世代セファロスポリン系薬は40%、経口フルオロキノロン系薬は30%、経口マクロライド系薬は25%削減する。
  8. 2027年までに人口千人当たりのカルバペネム系の一日静注抗菌薬使用量を2020年の水準から20%削減する。

令和5年4月7日国際的に脅威となる感染症対策の強化のための国際連携等関係閣僚会議
「薬剤耐性(AMR)アクションプラン2023-2027」より作成

2020年は新型コロナウイルス感染症の流行により患者さんの受診控えなどもあり抗菌薬の使用量が比較的少なかった年でもありますので、2020年との比較における使用量の削減はかなり意欲的な目標設定だといえます。また。入院患者では外来患者に比べ静注抗菌薬が本当に必要なケースも多いと考えられ、初回のアクションプランでは達成できなかった静注抗菌薬の使用量がどのぐらい削減できるかも今後の課題となるでしょう。

WHOの「AWaRe分類」で使用する抗菌薬の質にも着目

抗菌薬の使用量を削減する取り組みはこれまでも進められてきましたが、抗菌薬の使用に関する質の向上についてはまだ目が向けられていないところもあります。これに関し、WHOから「AWaRe分類」という概念が提唱されています。AWaRe分類は、薬剤耐性の観点から使用すべき優先順位付けとして、抗菌薬を大きく3つに分類したものです。それぞれ「アクセス(Access)」、「ウォッチ(Watch)」、「リザーブ(Reserve)」と命名されています。
アクセスに該当する抗菌薬はスペクトラムが狭く、耐性化の懸念も比較的低いため、一般的な感染症に対して第一選択または第二選択となります。ウォッチに該当する抗菌薬はスペクトラムがより広域な抗菌薬ですので、さらに限定された状況での使用が推奨されます。リザーブに該当する抗菌薬は、多剤耐性菌などに対し、ほかに使用できる抗菌薬がないときの最終の選択肢になる抗菌薬であり、できるだけ温存しておきたいものです。WHOは、2023年までには各国で使用する抗菌薬のうち最低でも60%がアクセスの抗菌薬になっていることを目標に掲げています(表4)。

表4 AWaRe分類
アクセス
(Access)
スペクトラムが狭く、安価で、安全性プロファイルが良好であり、全般的に耐性化の懸念が低い抗菌薬。一般的な感染症に対する経験的治療として第一選択または第二選択として推奨されることが多い。
Access antibiotics have a narrow spectrum of activity, lower cost, a good safety profile and generally low resistance potential. They are often recommended as empiric first- or second-choice treatment options for common infections.
内服薬
(薬効分類)
ペニシリン、第一世代セファロスポリン、スルホンアミド、テトラサイクリン、βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン、ニトロイミダゾールなど
ウォッチ
(Watch)
より広域なスペクトラムを有する抗菌薬で、全般的に価格も高く、臨床的により重症な患者または感染症の原因菌がアクセスの抗菌薬に対して耐性である可能性が高い場合(例:上部尿路感染症)の第一選択としてのみ推奨される。
Watch antibiotics are broader-spectrum antibiotics, generally with higher costs and are recommended only as first-choice options for patients with more severe clinical presentations or for infections where the causative pathogens are more likely to be resistant to Access antibiotics, such as upper urinary tract infections (UTIs).
内服薬
(薬効分類)
フルオロキノロン、マクロライド、第二世代セファロスポリン、第三世代セファロスポリン、キノロン、リファマイシンなど
リザーブ
(Reserve)
多剤耐性の感染症を治療する最終選択肢としての抗菌薬
Reserve antibiotics are last-choice antibiotics used to treat multidrug-resistant infections (see chapter on Reserve antibiotics).
内服薬
(薬効分類)
ポリミキシン(ポリミキシンB、コリスチン)、オキサゾリジノン(リネゾリド、テジゾリド)、ペネム(ファロペネム)

The WHO AWaRe (Access, Watch, Reserve) antibiotic book(https://www.who.int/publications/i/item/9789240062382)、AMR臨床リファレンスセンター 抗菌薬マスター(2023.10.18更新)AWaRe分類一覧のPDF「抗菌薬種類別」(https://amrcrc.ncgm.go.jp/surveillance/030/AWaRe_syurui_2021_ver1.1.pdf)より作成

なお、日本の処方販売量にもとづく研究からは、抗菌薬の1日使用量の約90%が経口抗菌薬と報告されています。諸外国に比べて経口の第三世代セファロスポリン系抗菌薬、フルオロキノロン系抗菌薬、マクロライド系抗菌薬の使用量が多いことが指摘されており、これらの多くは外来診療で処方されていることが推測されています。第三世代セファロスポリン系、キノロン系、マクロライド系などの広域抗菌薬は利点が多いと思われがちですが、重症ではない細菌感染症に対してこれらの抗菌薬を頻繁に使用してしまうと、耐性菌が生じた場合に効かなくなってしまいます。ですから、広域抗菌薬はむやみに使用せずにできるだけ温存しておくことが、使い方として重要だといえます。

感染対策向上加算の新設とサーベイランスへの参加

AMRに関するグローバルアクションプランや日本でのAMR対策アクションプランなどの策定を受け、私が所属するAMR臨床リファレンスセンターでは、

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