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強直性脊椎炎

2019年3月号
強直性脊椎炎の画像
強直性脊椎炎は、国の難病に指定されている原因不明で未だ根治療法のない慢性リウマチ性疾患です。しかし、生物学的製剤の登場などにより、炎症抑制、疼痛やこわばりなどの苦痛軽減の治療(対症療法)は徐々に進歩しています。今回は、ご自身も重症の患者であり、患者会である「日本AS友の会」の事務局長を務めている順天堂大学医学部附属順天堂医院整形外科・スポーツ診療科の井上久氏に、強直性脊椎炎の病態や治療について解説していただきました。

40歳以前に発症し早期発見が困難

強直性脊椎炎(Ankylosing Spondylitis:AS)は、脊椎や骨盤、手足の大関節に炎症が起こり、疼痛やこわばり、運動制限をもたらす慢性リウマチ性疾患です。国内患者数は3万人前後と推察されます。男女比はおよそ4:1と男性に多く、ほとんどが40歳以前に発症します。
初発症状としてはASに特有とはいえない腰背部痛や坐骨神経痛が多く、突発的に激痛が生じ数日後には自然消失その後再発、という経過をたどります。この症状は検査で異常が出る前に起きることが多いため、「痛がり屋」「怠け者」などと周囲に誤解されるケースもあります。典型例では、10歳代~20歳代にこうした脊椎周辺の広範囲な疼痛やこわばり、関節炎の徴候(疼痛、腫脹、熱感、発赤)などが出現し、20歳代後半~30歳代後半に病勢のピークを迎え、40歳代を過ぎると鎮静化します。重症例では、脊椎や関節に骨性の強直が生じ可動性がほぼ失われます。一方、若い頃に多少の腰殿部痛や胸部痛、踵痛を感じるのみで、大きな問題なく過ごせるケースも少なくありません。このように症状の程度、部位、経過が千差万別であることがASの早期発見を困難なものにしている主因と考えられます。日本AS友の会が実施したアンケート調査では、初発から確定診断に至るまでに10年近くの年月を要したという結果が出ています。
ASの原因や発生機序はまだ解明されていません。ヒト白血球抗原(HLA)の一つであるHLA-B27と強い関連性があることはわかっていますが、その他の多数の遺伝子や腸内の細菌感染との関連も推測されています。

問診や理学検査、血液検査、画像検査などで診断

ASを診断するために、まず病歴や家族歴も含め問診や理学検査を行います。ASの診断基準においては、臨床症状として、①運動により改善し安静により改善しない3カ月以上持続する腰痛やこわばり、②腰椎可動域制限、③胸郭拡張制限の3点があります。①~③のいずれかの症状がある場合、単純X線撮影で仙腸関節(骨盤にある仙骨と腸骨の間の関節)に炎症所見(骨硬化、びらん、癒合など)が認められる場合にASと診断されます。近年では、X線画像では確認できない微小な炎症がCTやMRIで確認できるようになりましたので、より早期の診断・治療が可能になりつつあります。ただし、これは過剰な診断などにつながる危険性もあります。なお、画像診断と並行して、血液検査で血沈やCRPなどの炎症反応の有無も確認します。HLA-B27の検査は早期診断の糸口ですが、残念ながらまだ保険が適用されていません。

関節リウマチと異なり罹患部位が体軸周辺

ASは、関節リウマチ(RA)の亜型として分類されていた時期もあり、症状の発生状況や病理組織所見がRAと類似していますが、相違点としては、まず罹患部位です。例外はありますが、四肢の末梢関節の罹患が多いRAに対し、ASでは脊椎や仙腸関節、肩関節や股関節といった体軸(体の中心部)周辺が主な罹患部位となります。また、ASに特徴的な仙腸関節炎はRAではほとんどみられません。RAで高頻度に上昇する血清リウマチ因子(RF)や抗CCP抗体がASでは上昇しないといった、血液検査上の違いもあります。

ASは薬物、運動、外科手術の三本柱で治療

ASは基本的に原因不明の疾患のため、根治療法がありません。炎症や疼痛の鎮静化、可動域制限の改善、強直の防止を目的に、薬物療法や運動療法が行われ、一部の重症例では手術療法も行われます(図)。

【薬物療法】

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が第一選択薬です。疼痛を完全に除去することは困難ですが、多くの症状やQOLを改善します。NSAIDsの連用により、特に血液炎症反応が高いASの靱帯骨化(強直)を抑制することが古くから証明されていますが、一方で、その副作用(消化器、腎臓その他)は黙認しがたく、骨化防止目的での長期連用については議論の余地があります。
RAでアンカードラッグとされるMTX(メトトレキサート)は、ASでのエビデンスが乏しいことが周知の事実であるにもかかわらず、リウマチ医による安易な投与がしばしば…

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