坐骨神経痛とは
坐骨神経痛とは、お尻から太ももの後ろなど、下腿の外側ないし後ろに交差する坐骨神経に沿って発生するしびれや痛みなどの症状を指します。左右両下肢に症状が出る患者さんは2〜3割で、大抵は片側に強く出ます。痛み方には個人差があり、長時間正座をした際のしびれのような痛みを感じる患者さんもいれば、針で刺されたような痛みを感じる患者さんもいます。
症状を引き起こす原因で最も多いのは、加齢による椎間板や脊柱管の変性です。背骨は椎骨という骨が積み重なってできていて、椎間板は椎骨と椎骨の間でクッションの役目を果たしています。脊柱管は、椎骨の椎体と椎弓の間にある空洞が、積み重なることでできる骨の管(隙間)で、中には脊髄が通っています。
加齢によって、最初に椎間板が変性します。椎間板の変性に伴って周辺の椎間関節や靭帯も加齢変化が進みます。次第に骨の変形やずれで脊柱管の内部が狭くなって脊髄の末梢にある馬尾神経を圧迫し、炎症や血流障害を起こしてしびれや痛みが生じるのです。つまり、坐骨神経痛は坐骨神経そのものの苦痛ではなく、腰部に生じた加齢性疾患の症状が坐骨神経に沿って表出するということです。
3つのタイプと日常生活への影響
加齢が根本的な原因ですが、変性がどこに生じるかで、坐骨神経痛は大きく「椎間板ヘルニア型」(以下、ヘルニア型)(図1)と「腰部脊柱管狭窄症型」(以下、狭窄症型)(図2)の2つのタイプに分かれます。さらに椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症を併せ持つ「混合型」の坐骨神経痛の患者さんもいます。加齢が原因のため患者さんは中高年に多いのですが、ヘルニア型の坐骨神経痛は40歳代の比較的若い患者さんに多く、狭窄症型は60歳代以降の高齢者に多くみられます。
図1 椎間板ヘルニア型
図2 腰部脊柱管狭窄症型
いずれのタイプでも患者さんが訴える症状でいちばん多いのは腰の痛みです。それから足の痛み、しびれと続きます。もう1つ、特徴的なのが間欠跛行(かんけつはこう)という症状です。跛行というのは足を引きずって歩くことです。歩き始めて5分くらいすると足がしびれてきたり痛くなったりして座り込んでしまう。苦痛が和らぐとまた歩けるようになるものの、やはり5分くらいすると症状が出て座り込んでしまう。このような状態を間欠跛行といいます。
坐骨神経痛による腰や足の痛みも問題ですが、間欠跛行により、患者さんは長時間歩くことができなくなってしまいます。そのため日常生活での行動範囲が狭くなり、外出して人と会うのが億劫(おっくう)になるなど次第に家に引きこもりがちになります。また、場合によっては失禁したり、トイレの回数が増えたりするなどの排尿障害が起こるので、生活の質がとても低下してしまうのです。
適切な薬物療法で痛みを取る
患者さんの約半数は、薬物療法でコントロールできます。神経の血流障害や炎症によって痛みなどの症状が現れているので、薬物療法は①血流を良くする、②炎症を抑える、③痛みを取ることを目的に実施されます。一般的に使用される薬剤として、狭窄症で血流を良くする場合には、リマプロストアルファデクスなどのプロスタグランジン製剤を投与します。炎症による痛みを取る場合にはNSAIDsが用いられます。弱オピオイドのトラマドール塩酸塩なども痛みを取るために適宜用いられます。その他に、坐骨神経痛は神経性疼痛の要素もあるため、プレガバリンも早期から使われます。大事なのは急性期の2〜3週間のうちに、できるだけ早く痛みのレベルを軽くすることです。基本的には、除痛ラダーに沿って処方を変更し、速やかにより良い除痛効果を得るようにします。
手術を選択するのは、薬物療法に反応しない場合や、もっと元気になって海外旅行やゴルフを楽しみたいという患者さんからの要望を受けて実施するケースが多いです。原因疾患に応じて手術をしますが、小切開で済む外科手術の実施や、内視鏡を使用するなど低侵襲な術法で神経を圧迫している組織を取り除きます。
薬物療法で注意すべきこと
NSAIDsを用いる場合は、胃腸障害に注意しないといけません。また、最近はそれ以上に腎障害に気をつける必要があると言われています。なぜなら、高齢者には隠れ腎障害の人が多く、薬剤性腎障害を起こすリスクがあるからです。NSAIDsを高齢者に用いる場合には、あらかじめ腎機能(GFR:糸球体濾過量)をチェックし、慎重に投与しないといけません。
また、プロスタグランジンは抗凝固系の薬なので、服用している高齢者は多いでしょう。アスピリンなどによる抗凝固系の治療(抗血小板治療)を行っている患者さんには、プロスタグランジンを控えるなどの配慮が必要です。
タイプ別の運動療法でセルフケア
薬の選択肢は増えましたが、現在の治療はあまり薬だけに頼らないで、運動療法や姿勢の矯正などで治しましょうという流れになってきています。実際に、狭窄症の患者さんでトレーニングセンターに通うようになったら改善したという例や、水泳を始めたら足のしびれが改善したという例もありました。
ただし、一口に坐骨神経痛といってもヘルニア型と狭窄症型では、適した運動療法や姿勢が異なります。ヘルニア型は前かがみになると神経が椎間板に圧迫されて痛み、逆に狭窄症型は腰を反らすと痛みます。それぞれのタイプに適した運動療法を以下で紹介しますので、患者さんへの情報提供に活かしてください。
【ヘルニア型にはノルディックウォーキング】
ノルディックウォーキングは、スキーのように2本のポールを使うことで姿勢が矯正されます。また、ポールを前後に動かすために手や肩などの筋肉を含め、より多くの筋肉を使うことになり、運動量が増えてダイエットにもなります。何よりもポールで体を支えることになるので、膝や股関節の負担が減り、膝の悪い高齢者でも速く歩けるようになることが大きなメリットです。速く歩けるようになると筋力がつくので、坐骨神経痛の痛みも軽くなるという良い循環になります。
ただし、これはヘルニア型には最適ですが、狭窄症型ではこのような運動をしてはいけません。狭窄症の場合、姿勢が良くなると背骨が反るので痛みが悪化してしまうからです。
【狭窄症型にはストレッチ】
狭窄症の場合は、腰を反らすと症状が悪化します。症状の軽い患者さんの場合は、歩き始める前にひとまず座って腰をぐーっと曲げて、前かがみになるストレッチをおすすめします。顔を床につけるくらい前屈し、10秒くらいキープします。すると脊柱管の内部が広がるので神経が圧迫されなくなり、楽になります。なお、前屈といっても、例えば右足が痛い場合には主に右側の神経が潰れているので左側に体を傾けながら前屈し、左足が痛い場合は右側に傾けながら前屈します。