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睡眠不足の法則

2018年2月号
睡眠不足の法則の画像

知らぬ間に心身に負担がかかる「潜在的睡眠不足」

1日の睡眠時間については、個人差が大きいことが知られています。日本の成人2万8,000人の睡眠時間を調べた研究では、7時間前後をピークに幅広い分布を示しています1)。また、世界各国のデータをまとめた研究によると、25歳では約7時間、45歳では約6.5時間、65歳では約6時間というように、25歳からは20年ごとに30分程度の割合で睡眠時間は減少することが明らかになっています2)。さらに、季節によっても睡眠時間が変動することから3)、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針2014」では、年齢や季節に応じて、昼間に眠気で困らない程度の睡眠を、と呼びかけています。
しかし、昼間に眠気で困っていなければ大丈夫かというと、実はそうでもないようです。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所のグループが、次のような実験を行いました4)。対象は、昼間の眠気を感じていない20歳代の男性15人。自宅での1日の平均睡眠時間(習慣的睡眠時間)は7時間22分で、これは国内外の20歳代男性の標準的な睡眠時間です。彼らに、防音・遮光された寝室で1日あたり12時間を目安に、9日間にわたって眠ってもらいました。途中で目が覚めても寝室から出られないので、二度寝、三度寝をすることになり、当人にとって必要な睡眠時間が絞り出されます。
そうすると、初日の睡眠時間は平均10時間33分で、自宅での睡眠時間より3時間以上も長いという結果でした。その後、徐々に減りましたが、自宅での睡眠時間を上回る水準で定常化し、必要な睡眠時間は平均8時間25分と試算されました。つまり、被験者の睡眠時間は約1時間不足していたわけです(図)。
重要なのは、当人が自覚していない1日あたり1時間の睡眠不足が、健康に影響を与えているかどうかという点です。そこで研究グループは、インスリン、甲状腺ホルモン、ストレス関連ホルモンなどの内分泌機能を調べました。すると、もともと正常範囲内ではあったものの、9日目にはより望ましい数値を示しました。つまり、被験者はふだん十分な睡眠時間を確保していたように見えて、知らぬ間に心身に負担がかかっていたのです。このように、心身への負担がありながら、眠気などの症状が乏しいために、本人は自覚できていない睡眠不足を、「潜在的睡眠不足」と研究グループは命名しました。そして、個々人が潜在的睡眠不足を解消するために、次のような方法を提案しています5)
しっかり眠気がきてから、個室で、目覚ましをかけず、遮光カーテンを引くかアイマスクをし、耳栓をします。途中でいったん目が覚めても、それ以上寝ることができなくなるまで眠ります。その睡眠時間が過去1週間の平均睡眠時間よりも3時間以上長いようであれば、ふだん眠気を感じていなくても睡眠習慣を見直す必要があると考えられます。

  1. Kaneita Y, et al.: J Epidemiol 2005; 15: 1-8
  2. Ohayon MM, et al.: Sleep 2004; 27: 1255-1273
  3. Okawa M, et al.: Acta Psychiatr Scand 1996; 94: 211-216
  4. Kitamura S, et al.: Scientific Reports I 6:35812 I DOI: 10.1038/srep35812
  5. ナショナル ジオグラフィック日本版
    https://style.nikkei.com/article/DGXMZO0959682016112016000000

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