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麻しん・風しん

2019年6月号
麻しん・風しんの画像
麻しんと風しんは、原因ウイルスは全く異なりますが、どちらも感染力が強く、特に麻しんは重症化の恐れが高い疾患です。2019年4月より2021年度末まで、一部の男性で麻しん風しん混合ワクチンの接種が無料化されることとなりました。予防接種や臨床ウイルス学の専門家である国立感染症研究所感染症疫学センター第三室(予防接種室)室長の多屋馨子氏に、解説していただきました。

重症化する可能性がある疾患

麻しんは、麻しんウイルスにより起こる急性の発熱発疹性感染症、風しんは、風しんウイルスの感染によって起こる急性の発熱発疹性感染症です。いずれも、ワクチンが 開発される以前は予防方法がなかったせいで多くの人々が罹患しました。そのため「誰でもかかる」「かかっても大したことはない」と誤解されるケースが少なくありません。
麻しんは重症化して命を奪われることもある疾患で、約1,000人に1人の割合で死亡する可能性があります。実際、国内での2000年前後の流行では年間約20人が死亡しました。世界においても2015年の5歳以下の小児の死亡数推計では、麻しんによる死亡が全体の1.2%を占めています。妊娠中の女性が感染すると、流産や早産の恐れもあります。
また、風しんでは、血小板減少性紫斑病(3,000~5,000人に1人)や急性脳炎(4,000~6,000人に1人)などの重篤な合併症がみられ、成人では関節炎を伴うこともあります。特に妊娠初期の妊婦が感染すると、生まれてくる児が難聴・白内障・先天性心疾患などを呈する先天性風しん症候群になる可能性があります。

感染経路は、空気感染、飛沫感染、接触感染

麻しんの感染経路は空気感染、飛沫感染、接触感染で、風しんは飛沫感染、接触感染です。ここで感染経路の違いを理解しておきましょう。咳やくしゃみをすると、口から細かい水滴が飛び散りますが、これを飛沫と言います。感染原因となる麻しんや風しんのウイルスが含まれている飛沫を吸い込むことで感染するのが飛沫感染です。飛沫は水分の重さがあるので、あまり遠くには飛散しません。ところが、ウイルスを含む飛沫の水分が蒸発し、飛沫核という軽く小さな粒子になると、長時間にわたって空気中を浮遊しながら遠くまで飛びます。そのため、感染者と同じ空間、同じ空調を共有する場に居合わせるとウイルスから逃れられません。これが空気感染です。たとえば、電車内で1人の麻しん患者が咳やくしゃみをした場合、同じ車両内に乗り合わせたほぼ全員が麻しんウイルスを吸いこみ、免疫が不十分な場合、感染して発症する恐れがあるということです。なお、接触感染は、主に感染者(源)に直接接触して感染します。

ワクチン接種や流行に関する近年の状況

麻しんと風しんは、ワクチンによる予防が極めて重要です。現在では、①1回で免疫がつかなかった人に免疫をつける、②1回接種後免疫が減衰してきた人の免疫を強化する、③受け忘れた人に2回目の機会を与える、を目的として1歳代で1回目、小学校入学前に2回目、計2回のMR(麻しん風しん混合)ワクチンの定期接種が行われています。また、過去に受けそびれた場合やワクチン接種歴が不明な場合にも、任意接種として自費でワクチンを受けることができます。

【麻しん】

日本では2007年に10~20歳代を中心に麻しんの大規模な流行が起こり、麻しん排除を達成していた先進諸国から「麻しん輸出国」などと揶揄される事態となりました。そこで厚生労働省は「麻しんに関する特定感染症予防指針」を策定し、さまざまな対策を講じました。その結果、2015年3月27日、世界保健機関西太平洋地域事務局(WPRO)により、日本は麻しんの排除状態と認定されました。したがって、国内での麻しん発生は、海外からのウイルス輸入例と、輸入例からの感染事例のみを認める状況となっています。
麻しんウイルスは1種類です。ただし、詳しく解析すると24種類の遺伝子型に分類されます。遺伝子型が異なっても、麻しん風しん混合ワクチンの効果に違いはなく、すべての遺伝子型の麻しんウイルスにワクチンは予防効果があります。2018年12月末の三重県開催の研修会に参加した人の間で麻しんが集団発生しました。また、2月には大阪市内の商業施設で集団感染事例がありました。日本固有のウイルスが排除されても、海外から持ち込まれ、ワクチン未接種などで抗体を持たない人が集まっていれば、たやすく集団感染が発生することを、この事例が示しています。

【風しん】

風しんについても、厚生労働省は「風しんに関する特定感染症予防指針」を策定し、早期に先天性風しん症候群の発生をなくすとともに、2020年度までに風しんの排除達成を目指しています。しかし、2019年に入ってから第15週までの累積患者数は1,276人で、流行の拡大が懸念されています。また、5年ぶりに先天性風しん症候群の新生児1人も報告されました。

MRワクチン接種の徹底を

特異的治療法はなく、発症時の処置は対症療法のみです。また、麻しんは特に症状が重症化する可能性が高く、風しんは妊婦が罹ると胎児に影響が出る可能性がある疾患ですので、ワクチンによる予防が極めて重要です。

【麻しん】

日本は麻しんの排除状態が認定されていますが、海外には今なお流行地があります。未接種末罹患の場合や、1回のみの接種の場合、罹患歴や予防接種歴が不明な場合には、渡航前に予防接種を受けることが重要です。

【風しん】

先天性風しん症候群を予防するためにも、妊娠を望む男女はともに抗体検査を受け、抗体価が低い場合にはワクチンを接種しましょう。妊娠中の女性はワクチンを受けることができません。妊娠中に抗体がない、あるいは低い女性は、出産後すぐにワクチンを接種してください。
また、子どものころにワクチン接種の機会がなかったため風しんに対する免疫のない人が多い1962年4月2日から1979年4月1日生まれの男性(2019年4月1日時点で40~57歳に相当)を対象に、抗体検査とワクチン接種の無料化が2019年から始まりました(無料期間は2021年度末まで)。2019年はまず、40歳から47歳までの対象者に、住所地の自治体から無料クーポン券が順次送られます。なお、48歳以上でも対象年齢であれば、自治体に希望することでクーポン券を得られます。この機会を生かし、ぜひ抗体検査を受け、抗体価が低い場合にはワクチンを接種してください。

発症したらまず医療機関に連絡

次のような症状がみられたら、感染拡大を防ぐために事前に医療機関に連絡し、麻しんまたは風しんの疑いがあることを伝え、医療機関の指示に従って受診しましょう。 受診時は、周囲への感染を防ぐために、公共交通機関の利用を避けてください。

【麻しん】

十分な抗体がない場合、麻しんウイルスに感染するとほぼ100%発症します。潜伏期間は約10~12日で、38℃前後の発熱や咳、鼻水などの症状が現れます。熱は2~3日続いた後にいったん1℃程度下がりますが、半日程度で39℃以上にも上がり、同時に特有の発疹が耳の後ろ近辺、顔面から全身へ広がります。

【風しん】

潜伏期間は約14~21日で、感染すると発熱や発疹、リンパ節の腫れなどの症状が現れます。風しんに似た症状の疾患は多く存在するため、検査を行わない限り診断が確定できません。2018年から、血液、のどのぬぐい液、尿のPCR検査、抗体検査を全例に実施することになっています。

患者への情報周知や受診勧奨を期待

国のワクチン政策が変遷する中で、これまで2回の接種が徹底できていない人は多く、子どものころにワクチン接種の機会がなかった人も少なくありません。自身のみならず、周囲への感染拡大を防ぐためにも、ワクチンによる予防は非常に重要です。しかし、残念ながら、MRワクチン接種の意義や対策はなかなか認知されていません。
医療の専門職である薬剤師のみなさんには、本稿で紹介した内容を来局された患者さんに説明し、まずは母子健康手帳で自身の予防接種記録を確認していただくよう伝えて ください。その結果、罹患歴がなく予防接種を1歳以上で2回接種していない人や、抗体獲得の状況が不明な人、妊娠を望む人などには予防接種をぜひとも勧めてください。

表 麻しんと風しん
  麻しん 風しん
感染経路
  • 空気感染、飛沫感染、接触感染
  • 飛沫感染、接触感染
潜伏期間
  • 約10~12日
  • 約14〜21日(平均16〜18日)
主な症状
  • 38℃前後の発熱や咳、鼻水など
  • 熱は2~3日続きいったん下がり、半日程度で39℃以上に上昇
  • 再度の発熱と同時に特有の発疹が顔面から全身へ広がる
  • 発熱、発疹、リンパ節腫脹
  • 15~30%程度は不顕性感染
  • 似た症状の疾患が多く存在
妊婦への影響
  • 流産や早産の可能性あり
  • 児が先天性風しん症候群を発症する可能性あり
2019年の発生状況
  • 2月に大阪市内の商業施設で集団感染
  • 第15週までの累積患者報告数は1,276人
ワクチン接種が特に重要な対象者
  • 海外渡航者
  • 医療機関、保育所、学校、海外からの来訪者と接触する機会が多い職場、不特定多数の人と接触する機会が多い職場に勤務する者
  • 罹患歴がなく予防接種を1歳以上で2回接種していない者
  • 抗体獲得の状況が不明な者
  • 妊娠を望む男女(妊婦は接種を受けられない。出産後早期に接種)

多屋氏の話をもとに編集部作成

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