3次元画像による標的生検で検出率の精度向上
早期の前立腺がんは症状がほとんどなく、がんができる場所によっては精液に血液が混じったり、尿線が細くなったりする。現在、市区町村の8割以上が前立腺がん検診で前立腺特異抗原PSAの検査を導入している。血液検査でPSA値4ng/mL以上は高値と評価され、前立腺生検が行われる。
従来の生検は前立腺全体に均等に針を刺して行われるが、術者によってばらつきが生じることがある。その他にも生検の問題点として、出血、感染症、がんの見逃しの可能性などが指摘されている。前立腺がんは、多くの固形がんとは違って肉眼でがんを観察できない。しかも早期の段階でも前立腺内部にがんが多発するため、部分的に治療をするのが難しいとされる。
その後、画像診断の進歩などによって予後に影響するがんを確認できるようになった。同科では、PSAが4ng/mL以上の患者にMRI画像とエコー画像を融合させて鑑別したがんを3次元画像下で標的生検を実施している(核磁気共鳴画像-経直腸的超音波画像に基づいた前立腺生検は2014年に先進医療Aとして厚生労働省が承認)。ピンポイントでがんに針を刺し、その場所を記録することができる。
小路氏らはこれまでに570例以上に標的生検を行い、そのうちの450例を対象に標的生検と従来生検の精度を比較した。その結果、がんの検出率は標的生検が54%、従来生検が35%だった。また、予後への影響があると考えられるがんの検出率は標的生検が47%、従来生検が20%と、標的生検のほうが従来の生検より精度が高かった。小路氏は「従来の生検ではがんの有無しかわからなかったが、標的生検に病理組織学的診断を加味することで、がんのある場所、形態、悪性度などが診断できるようになった」と述べている。
超音波を用いて効率的にがんを破壊
前立腺がんの治療は薬物療法と非薬物療法がある。男性ホルモンのアンドロゲンを抑えるホルモン療法は長期間続くとさまざまな影響が生じることが知られている。非薬物療法である手術、放射線治療は根治を目的にするが、排尿機能、性機能への影響が避けられない。がんの悪性度が低い場合などは、無治療監視療法の対象となり、3カ月ごとにPSAの検査を受ける必要があるが、機能を温存できる一方、がんと共存することになるために常に不安がつきまとう。
同科では早期前立腺がんに対して、高密度焦点式超音波療法を用いた局所療法(前立腺部分治療)を行っている。この治療法は、メスを使わず、超音波エネルギーを集中させてがんを熱凝固とキャビテーションと呼ばれる物理的作用により破壊するのが特徴。がんとその周囲だけを治療することができるので、排尿機能や性機能に関係する部分を温存しやすいという。同科ではこれまでに50例以上に実施。6カ月以上経過を観察できた20例の手術時間は29分(中央値)で、治療後24時間以内に退院が可能だった。また、PSA値は術後3カ月で71%低下、6カ月で74%低下し、フォローアップ生検で患者の87%はがんの再発が見られなかった。「超音波ががんを効率的に焼却した結果」と小路氏は考察している。また、排尿障害や勃起障害などの合併症も少なく、患者アンケートで患者のQOLの向上が認められたとしている。