本記事は、公益財団法人 日本医療機能評価機構が薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業にて発行している「共有すべき事例」を参考に、事例の概要と関係する薬剤のポイントを中心にサクッと読めるようファーマスタイル編集部が作成、紹介しています。
「共有すべき事例」原本はこちらから
https://www.yakkyoku-hiyari.jcqhc.or.jp/contents/sharing_case/index.html
バンコマイシン塩酸塩の注射薬と内服薬
- バンコマイシン塩酸塩は、注射薬・内服薬(散剤)ともにバイアル製剤。
- 内服薬は、経口用と認識できるよう薬瓶ラベルに「経口剤」および赤地に白文字で「禁注射」と表記
- 発注時は「注射薬」か「内服薬」かの確認を徹底し、発注間違いに注意。納品時は発注書と納品伝票を照合して確認する。
施設入所者の尿からMRSAが検出され、医師はバンコマイシン塩酸塩点滴静注用0.5g「明治」を処方。施設看護師より至急の依頼を受け、薬局の発注担当者は卸業者に電話で薬剤の発注を行ったところ、卸業者が内服薬のバンコマイシン塩酸塩散0.5g「明治」と聞き間違えた。卸業者は発注内容を復唱したが、薬局の発注担当者は間違いに気づかなかった。
薬剤が納品され、薬剤師Aは十分に確認しないまま施設へ届けた。翌日、薬剤師Bがバンコマイシン塩酸塩点滴静注用0.5g「明治」ではなく、内服薬のバンコマイシン塩酸塩散0.5g「明治」が納品されていたことに気付いた。すぐに施設へ連絡したが、バンコマイシン塩酸塩散0.5g「明治」はすでに患者に静脈注射されていた。
- 本事例は、薬剤師が、処方薬とは投与経路の異なる同成分の薬剤が納品されたことに気付かず調剤し、患者に内服薬が静脈内投与された事例。
- 発注時と納品時の確認不足が誤交付の要因。特に薬剤を電話で発注する場合、改めて発注書を作成してFAXするなど、伝達間違いが起きないように発注手順を定めておく。また、薬剤納品時には、発注書と納品伝票を照合することが重要。
処方間違い:アストミンとフェアストン
- 処方オーダリングシステムで部分一致検索機能を採用している場合は、一見、名称が類似していない薬剤が誤って処方されることがある。
40歳代の女性患者に、セフジトレンピボキシル錠、ムコダイン錠、ロキソプロフェン錠、フェアストン錠が処方、それぞれの用法・用量は1回1錠1日3回毎食後と指示あり。薬剤師は、問診票(風邪症状による受診)や年齢、お薬手帳の情報から、閉経後乳がんの治療薬のフェアストン錠が処方されていることに疑問を感じ、患者に既往歴、現病歴を聴取したところ、乳がんと診断されてはいなかった。疑義照会を行った結果、フェアストン錠はアストミン錠に変更された。
- 薬剤名の前方一致により、処方間違いが起きる事例が多いが、医療機関が処方オーダリングシステムで部分一致検索機能を採用している場合は、一見すると名称が類似していない薬剤が誤って処方されることがある。
類似事例 カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム錠(血管強化・止血剤)が、塩酸プロカルバジンカプセル(抗がん剤)と誤って処方され、患者が服用した事例あり。 -
アストミン錠10mg:[効能・効果]上気道炎、肺炎などに伴う鎮咳
[用法・用量]通常、成人1~2錠/回を1日3回経口投与
フェアストン錠40:[効能・効果]閉経後乳がん
[用法・用量]通常、成人1日1回経口投与
本事例では、用法・用量が「1回1錠1日3回毎食後」と指示されているが、フェアストン錠40は通常1日1回。
処方された薬剤の用法・用量が適切かの確認も、処方間違いに気づく契機になる。