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専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

慢性腎臓病 Part.1 1,300万人以上が罹患する国民病「慢性腎臓病」とは?

2018年12月号
慢性腎臓病(CKD) Part1 腎機能に応じた薬剤選択と用量調節が鍵の画像

Check Point

 CKDは腎機能が低下する種々の腎疾患の 括的総称
 糖尿病の有無とタンパク尿で降圧目標を決定
 糖尿病の有無にかかわらずタンパク尿陽性の第一選択薬は ACE阻害薬またはARB
 高齢者では急性腎障害のリスクを考慮する

Part.1 腎機能に応じた薬剤選択と用量調節が鍵

1,300万人以上が罹患する国民病 透析導入と心血管病のリスクに

CKDは米国腎臓財団が2002年に提唱した概念で、日本でもかなり浸透してきている。高齢化や食生活の欧米化に伴う糖尿病や高血圧の増加を背景として、日本人のCKD患者は増加しており、約 1,330万人(成人人口の12.9%)と推計 され、8人に1人が罹患する“国民病”とも言える。腎機能が低下すると、心血管病(CVD)のリスクが高まるとされる。また、末期腎不全(ESKD)により透析療法を要する 患者も30万人を超えて増加の一途にあり、医療経済的にも問題となっている。このため、腎障害を早期に発見して病期 を把握し、より早期から行動を起こしてESKDとCVDを未然に防ぐことが、最大の治療目標となる。
透析導入患者の原因疾患は、1位が糖尿病性腎症で、2位が慢性糸球体腎炎、3位が腎硬化症である。糖尿病性腎症と腎硬化症は増加を続けているが、慢性糸球体腎炎は減少傾向にある。東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科講師の田中哲洋氏は、「腎機能が低下してCKDの範疇に入ってしまうと、原則として失われた腎機能を回復させることはできませんが、進行を遅らせることには大きな意味があります」と語る。
厚生労働省は2018年5月、「腎疾患対策検討会報告書」を公表した。CKDを早期に発見・診断し、重症化予防の徹底と患者のQOLの維持向上を図ることを目標として、地域におけるかかりつけ医と専門医の連携体制の構築などを掲げた。また2028年までに年間新規透析導入患者数を35,000人以下に減少させるという数値目標も設けている。
さらに同年6月には5年ぶりに日本腎臓学会がガイドラインを改訂し、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン 2018』を発行。GFRとアルブミン尿による重症度分類をもとに、かかりつけ医から専門医・専門医療機関への紹介基準を示すなど、CKD対策は新たな動きを見せている。

自覚症状がないCKD GFRとアルブミン尿で重症度を分類

CKDは初期には自覚症状がほとんどないため気付きにくく、健康診断ではタンパク尿や血尿、血清クレアチニン(Cr)値の異常が早期発見の鍵となる。その他には例えば、循環器内科で心疾患の治療を受けている人が、腎機能が悪化してCKDを合併するケースもある。進行すると、水分排泄に支障をきたし、足や顔のむくみ、貧血などの症状を呈してくることがある。透析が視野に入ってくると尿毒症が現れ、倦怠感や食欲不振なども生じてくる。
診断と重症度分類にはGFRとアルブミン尿、またはタンパク尿の検査が必要となる。CKDの原因疾患を調べ、生活習慣病も評価する。超音波(エコー)検査で腎臓の形状や腎臓内の血流を確認することもある。診断基準は表1の通り。

表1 CKD診断基準(以下のいずれかが3ヵ月を超えて存在)
腎障害の指標 アルブミン尿(AER≧30mg/24時間;ACR≧30mg/gCr)
尿沈渣の異常
尿細管障害による電解質異常やそのほかの異常
病理組織検査による異常、画像検査による形態異常
腎移植
GFR低下 GFR<60mL/分/1.73m2

AER:尿中アルブミン排泄率、ACR:尿アルブミン/Cr比

日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」より引用

GFRは腎臓が老廃物を濾過して尿中へ排泄する能力をあらわす。日常診療においては血清Cr値および性別、年齢から推算糸球体濾過量(eGFR)を算出する。日本人では、以下の推算式を用いる。
eGFRcreat(mL/分/1.73m2)= 194×血清Cr(mg/dL)–1.094×年齢(歳)–0.287

(女性はこれに×0.739)

重症度分類は尿アルブミン量または尿タンパク量、GFR値で区分する(表2)。新ガイドラインでは、GFR区分とアルブミン尿に応じてかかりつけ医から専門医・専門医療機関への紹介基準が示され、G1〜G2でもA3(顕性アルブミン尿・高度タンパク尿)の場合は専門医に紹介することを推奨した。これにより原疾患にかかわらず包括的な、より早期からの対応が広まるものと期待されている。

表2 CKDの重症度分類
原疾患 蛋白尿区分 A1 A2 A3
糖尿病 尿アルブミン定量(mg/日)
尿アルブミン/Cr比(mg/gCr)
正常 微量アルブミン尿 顕性アルブミン尿
30未満 30~299 300以上
高血圧
腎炎
多発性囊胞腎
腎移植
不明
その他
尿蛋白定量(g/日)
尿蛋白/Cr比(g/gCr)
正常 軽度蛋白尿 高度蛋白尿
0.15未満 0.15~0.49 0.50以上
GFR区分
(mL/分/1.73m2
G1 正常または高値 ≧90      
G2 正常または軽度低下 60~89      
G3a 軽度~中等度低下 45~59      
G3b 中等度~高度低下 30~44      
G4 高度低下 15~29      
G5 末期腎不全(ESKD) <15      

重症度は原疾患・GFR区分・蛋白尿区分を合わせたステージにより評価する。CKDの重症度は死亡、末期腎不全、心血管死発症のリスクを緑   のステージを基準に、黄   、オレンジ   、赤   の順にステージが上昇するほどリスクは上昇する。

(KDIGO CKD guideline 2012を日本人用に改変)

注:わが国の保険診療では、アルブミン尿の定量測定は、糖尿病または糖尿病性早期腎症であって微量アルブミン尿を疑う患者に対し、3ヵ月に1回に限り認められている。糖尿病において、尿定性で1+以上の明らかな尿蛋白を認める場合は尿アルブミン測定は保険で認められていないため、治療効果を評価するために定量検査を行う場合は尿蛋白定量を検討する。

日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」より引用

5年ぶりのガイドライン改訂で過降圧の注意喚起と降圧薬選択に変化

CKDは生活習慣病を背景に有している頻度が高いことから、新ガイドラインでは、「腎硬化症・腎動脈狭窄症」「高血圧・CVD」を独立した章としている。とりわけ高血圧は、8割以上が合併しており、心血管病のリスクを上昇させる。腎障害を伴う高血圧の治療は、降圧によりタンパク尿を減らし、腎障害の進行を抑制することが重要になる。
ガイドラインで示された降圧目標では、75歳未満はCKDのステージにかかわらず糖尿病とタンパク尿の有無で降圧目標を定めている(表3)。一方、75歳以上の高齢者では過剰な降圧による転倒や急性腎障害(AKI)のリスク増加が懸念されることから、より緩徐な降圧目標が設定され、忍容性を確認しながら治療を進めることが明記された。同様の観点から、収縮期血圧(SBP)110mmHg未満への降圧は提案しないことが記載されている。高齢者は夏の暑い時期に脱水をきたすと、薬剤が効き過ぎて過降圧となり、AKIを生じる恐れが増すため、リスク低減を図らなくてはならない。今回のガイドライン改訂ではそのような配慮が窺われる。

表3 CKD患者への降圧療法
    75歳未満 75歳以上
糖尿病(-) 蛋白尿(-) 140/90mmHg未満 150/90mmHg未満
蛋白尿(+) 130/80mmHg未満 150/90mmHg未満
糖尿病(+) 130/80mmHg未満 150/90mmHg未満
  • 75歳未満では、CKDステージを問わず、糖尿病および蛋白尿の有無により降圧基準を定めた。
  • 蛋白尿については、軽度尿蛋白(0.15g/gCr)以上を「蛋白尿あり」と判定する。
  • 75歳以上では、起立性低血圧やAKIなどの有害事象がなければ、140/90 mmHg未満への降圧を目指す。

日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」より引用

もう1点のポイントが、降圧薬の選択である(表4)。従来は、糖尿病の合併の有無が、降圧薬選択の際の注意点だったが、加えてタンパク尿も重視されるようになった。

表4 CKD患者への推奨降圧薬
  75歳未満 75歳以上
CKDステージ 糖尿病、非糖尿病で蛋白尿(+) 非糖尿病で蛋白尿(-)  
G1~3 第一選択薬 ACE阻害薬、ARB ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬、サイアザイド系利尿薬
[体液貯留]から選択
75歳未満と同様
第二選択薬(併用薬) Ca拮抗薬[CVDハイリスク]、
サイアザイド系利尿薬[体液貯留]
G4、5 第一選択薬 ACE阻害薬、ARB ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬、長時間作用型ループ利尿薬[体液貯留]から選択 Ca拮抗薬
第二選択薬(併用薬) Ca拮抗薬[CVDハイリスク]、
長時間作用型ループ利尿薬[体液貯留]
  • 軽度尿蛋白(0.15g/gCr)以上を「蛋白尿(+)」と判定。
  • 糖尿病、非糖尿病で蛋白尿(+)の第三選択薬(2剤目の併用薬)として、利尿薬またはCa拮抗薬を考慮する。
  • 非糖尿病で蛋白尿(-)の併用薬は、ACE阻害薬とARBの併用を除く2剤または3剤を組み合わせる。
  • ステージG4、5でのACE阻害薬、ARB投与は少量から開始し、腎機能悪化や高K血症などの副作用出現時は、速やかな減量・中止またはCa拮抗薬への変更を推奨する。
  • 75歳以上のステージG4、5でCa拮抗薬のみで降圧不十分な場合は、副作用に十分注意しながらACE阻害薬、ARB、利尿薬を併用する。

日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」より引用

タンパク尿を呈している場合には、ACE阻害薬またはARBを第一選択にするというのが、基本的な考え方である。ただし、G4、5では腎機能悪化や高カリウム血症に注意し、こうした症状が出現した場合には減量・中止、あるいはCa拮抗薬への変更を検討する。RA系阻害薬だけでは降圧効果が不十分な場合、Ca拮抗薬や利尿薬を加える。
一方、GFRが低下していてもタンパク尿を伴わない患者には、RA系阻害薬以外にも、Ca拮抗薬や長時間作用型ループ利尿薬などを主治医の裁量で第一選択薬として処方できる。Ca拮抗薬は細動脈の拡張効果が高いため、使い分けは大切である。75歳以上でG4以上の患者では、脱水や虚血に対する脆弱性を考慮してCa拮抗薬が第一選択薬となる。
RA系阻害薬を併用することの有効性を示すエビデンスは少ない。ACE阻害薬とARBの併用は、単剤と…

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