
Check Point
Part.1 日本人に多いインスリン分泌低下型は病態、年齢によって薬剤を選択
糖尿病患者数は316万人 高齢期に発症リスク高まる
2型糖尿病は、血糖を処理する唯一のホルモンであるインスリンの分泌低下をきたす遺伝因子に、過食や運動不足などの生活習慣が引き起こすインスリン抵抗性が加わって発症する。膵臓の機能が低下すると十分なインスリンが分泌されず、結果として血糖を処理できなくなる。また、インスリンがある程度分泌されているにもかかわらず、その効果が十分でない状態、すなわちインスリン抵抗性は運動不足や過食が大きな要因になっている。
厚生労働省の2014年患者調査によれば、糖尿病患者数は316万6,000人。前回調査(2011年)の270万人から46万6,000人増えて過去最高となった。しかし、これは医療機関で糖尿病の治療を受けている患者数で、無治療のまま放置されている者を含めると、実際の糖尿病患者は1,000万人以上と推計されている。日本人に糖尿病が多い背景には、インスリン分泌能が低いことや過食、運動不足など環境因子がある。また、高齢期には糖尿病の発症リスクが高まることがわかっている。
東京女子医科大学糖尿病センターでは1日350〜400人(年間約20,000人)の糖尿病患者を診療している。糖尿病は全身にさまざまな合併症を併発するが、センター長の馬場園哲也氏によれば、「合併症の症状が出現してから受診される患者さんが多いというのが実情です」という。
合併症はかかりつけ医と専門医が連携して対応
糖尿病は、膵β細胞の破壊にともなう絶対的インスリン欠乏にいたる1型糖尿病と、主に生活習慣に起因して成人期に発症し、インスリン分泌低下、インスリン抵抗性による2型糖尿病、それに膵外分泌疾患や内分泌疾患などにともなって発症するもの、さらには妊娠中に発見される妊娠糖尿病の4型に分類される。1型糖尿病は、主に小児期に発症し、糖尿病全体からみればその頻度は5%程度で、大部分は2型糖尿病である。
糖尿病の診断は、高血糖が慢性的に持続していることを証明することだが、早朝空腹時血糖値≧126mg/dL、75gブドウ糖負荷(OGTT)で2時間値≧200mg/dL、随時血糖値≧200mg/dLのいずれかと、過去1~2ヵ月の血糖値を反映するHbA1cが6.5%以上あったとき糖尿病と診断される(図1)。なお、糖尿病型にも正常型にも属さない境界型は、糖尿病型への進展率が高いことから生活習慣の改善、耐糖能異常の経過観察が求められている。初期は無症状で進行する2型糖尿病の場合、診断される以前から発症している可能性が高く、発症時期を特定することは困難である。
図1 糖尿病の臨床診断のフローチャート

注)糖尿病が疑われる場合は、血糖値と同時にHbA1cを測定する。同日に血糖値とHbA1cが糖尿病型を示した場合には、初回検査だけで糖尿病と診断する。
日本糖尿病学会糖尿病診断基準に関する調査検討委員会:糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(国際標準化対応版)
糖尿病55: 494, 2012より一部改変
糖尿病は多くの合併症を併発するが、急性合併症では高度のインスリン作用不足によって起こる糖尿病ケトアシドーシスが重要である。程度の差はあるが意識障害を起こし、重度の場合は昏睡にいたる。十分な輸液と電解質の補正、それに適切なインスリン投与が必要だ。
長年の高血糖によって起こる慢性合併症では網膜症、腎症、神経障害の3大合併症がよく知られているが、糖尿病は冠動脈疾患や脳血管障害のリスクでもある。合併症の進展阻止で最も重要なのは血糖コントロールだが、合併症のリスクを減らすためには高血圧や脂質代謝異常、肥満の改善が必要。合併症がある場合には、それぞれの専門診療科と連携をとって対処する。たとえば糖尿病腎症では、早期腎症期ならかかりつけ医が、顕性腎症期以降では、かかりつけ医と糖尿病あるいは腎臓専門医が連携する。さらに透析導入後の血糖管理は透析クリニックやかかりつけ医と糖尿病専門医が連携して行う。その他の合併症でも腎症とほぼ同様の連携が図られる。
罹病期間が長ければ長いほど合併症の頻度は高くなり、診断時に合併症を指摘された患者は相当期間にわたって血糖コントロールをしてこなかった可能性がある。住民健診、職場健診などで早期に発見し、早期治療に結びつけ、合併症の発症を水際でくい止めることが重要だ。
血糖、血圧、脂質、体重のコントロールを十分に行う
糖尿病治療の目標は、高血糖に起因する代謝異常を改善することに加え、糖尿病に特徴的な合併症の発症、進行を防ぎ、健康人と変わらないQOLを保ち、健康人と同様の寿命を全うすることにあるが、馬場園氏は「血糖コントロールだけでは必ずしも合併症予防につながりません」と指摘する。血糖コントロールに加え血圧、脂質、体重を同時にコントロールすることが重要という。糖尿病に進展しやすい境界型においても血圧、脂質、体重のコントロールは必要である。糖尿病の新規患者は増えているが、近年、患者の寿命は延びており、治療を受けている患者の血糖、血圧、脂質、体重のコントロールが十分に行われていることが推察できる。
血糖コントロールの指標は、平均血糖値を反映するHbA1cを主要な判定項目として判断する。成人(妊娠例と高齢者は除く)の場合、食事療法や運動療法または薬物療法中でも低血糖の副作用がなく達成可能ならHbA1c 6.0未満、合併症予防の観点からはHbA1c 7.0未満、治療の強化が難しい場合はHbA1c 8.0未満を目標に治療を行うが、「糖尿病治療ガイド2018-2019」では、「治療目標は年齢、罹病期間、臓器障害、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して個別に設定する」とされている(図2)。若年者で罹病期間が短い、併存疾患や血管合併症がないといった症例では厳格なコントロールが可能であり、目標を高くすることで合併症のリスクを減らせると考える。また、高齢者で併存疾患がある場合、目標を高くすることは低血糖のリスクが高くなることから、実現可能な目標を設定する。血糖値の正常化を目指すという観点からすればHbA1c 6.0未満とすべきだが、さまざまな要因によって血糖値の正常化が困難な場合は、最低限達成すべき目標値としてHbA1c 8.0未満を設定している。
図2 血糖コントロール目標

- 適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法中でも低血糖などの副作用なく達成可能な場合の目標とする。
- 合併症予防の観点からHbA1cの目標値を7%未満とする。対応する血糖値としては、空腹時血糖値130mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dL未満をおおよその目安とする。
- 低血糖などの副作用、その他の理由で治療の強化が難しい場合の目標とする。
- いずれも成人に対しての目標値であり、また妊娠例は除くものとする。
日本糖尿病学会編・著「糖尿病治療ガイド2018-2019」を参考に編集部作成
使用頻度が高いDPP-4阻害薬 体重が増加しにくく低血糖も起こしにくい
糖尿病治療では食事療法、運動療法、薬物療法が基本となるが、馬場園氏によると、「実際には食事と運動だけで血糖コントロールが良好に保たれるケースは少ない」という。
薬物療法では、それぞれの病態に合わせて治療薬が選択される(図3)。そのためには診断時にインスリン抵抗性型かイン…