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薬剤師がおさえておきたい注目の記事
ハイリスク薬加算の薬歴の書き方は?服薬指導例についても解説
専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

糖尿病患者のアドヒアランス向上の決め手は?

2018年11月号
慢性腎臓病(CKD) Part2 薬効を最大限に引き出すためアドヒアランス向上に努めるの画像
糖尿病を発症すると細小血管障害、大血管障害により全身にさまざまな合併症を起こす。治療は合併症の予防とADL(日常生活動作)の維持、QOLの向上を目指して行われるが、高齢者か否か、あるいは病態により用いられる薬剤が異なる。また薬物療法とともに食事療法、運動療法が重要な位置を占めるため、患者の自己管理が強く求められる。東京女子医科大学内科学(第三)講座教授・講座主任、糖尿病センター長の馬場園哲也氏に糖尿病における薬物療法を中心に解説いただき、同病院薬剤部に糖尿病患者の服薬指導について聞いた。

薬剤師に期待される服薬指導・薬物治療適正化のポイント

  1. 血糖コントロール不良例は服薬状況に問題があるかチェックする
  2. 健康食品を服用している患者には医師に相談するよう指導する
  3. シックデイのときの対処方法と受診のタイミングを伝える
  4. 処方された薬の説明は個々の患者の理解度に応じて個別に対応する

Part.2 血糖コントロール不良例は服薬状況を確認してアドヒアランスを評価

服薬状況を把握しコントロール不良の原因を見極める

糖尿病は検査と教育の病気といわれる。無症状で推移し、気がつけば合併症で失明の危機が迫っていたり、腎障害を併発あるいは心血管系の病気に見舞われることも少なくない。糖尿病では、患者自身が糖尿病についての理解を深め、定期的に検査を受けて血糖や血圧、脂質、肥満がコントロールできているかを確認する必要がある。
東京女子医科大学病院では、医師、看護師、薬剤師らが1週間かけてさまざまな角度から糖尿病に関する教育を行う。薬剤師の話の主な内容としては2型糖尿病治療の流れ、HbA1cを下げるとどのような効果が期待できるか、病型と薬物療法、低血糖症状と対策、薬の保管方法、使用済み注射器・注射針の処理、健康食品と民間療法など。「お話をすると、インスリンは一生やらなければいけないのか、健康食品はどうなのか、薬の保管方法について聞きたいなど、さまざまな質問を受けます」と、東京女子医科大学病院薬剤部の佐藤美絵氏、宮崎雅子氏、服部雄一氏は話す。
病棟で服薬指導にあたる服部氏は、「何らかの理由で服用していないのに、『飲んでいる』と答える患者もいる」と言う。「血糖コントロールが不良なのは薬の問題なのか、処方通りの服用ができていなくて血糖コントロールができないのか。そうした見極めも重要です」。
持参薬をチェックすることで服薬状況は把握できるが、原因の見極めがつかないと、血糖コントロールが悪いからと投与量が増えてしまうケースも考えられるため服薬状況の確認はきわめて大切である。東京女子医科大学病院薬剤部では、健康食品に関しては、糖尿病治療に効果が認められているものはないと説明している。サプリメントの中には自発性低血糖症が報告されているものもあるため「どうしても」という患者には医師に相談するようアドバイスする。

患者が症状を訴えたら薬剤性の副作用かどうかを疑う

薬剤師にとって重要な役割の1つは副作用と相互作用のチェックである。本誌2017年3月号(No.102)でも紹介しているが、糖尿病治療薬の副作用として注意すべきは、SU薬では低血糖、体重増加、ビグアナイド薬では吐き気、下痢、腹痛(乳酸アシドーシス)、速効型インスリン分泌促進薬は低血糖、チアゾリジン薬は体重増加、α-グルコシダーゼ阻害薬は腹部膨満感、下痢、DPP-4阻害薬は他の薬剤と併用したときの低血糖や便秘、腹痛、嘔気・嘔吐、上気道感染、鼻咽頭炎、頭痛、SGLT2阻害薬は脱水、尿路感染症、性器感染症と他の薬剤と併用したときの低血糖などである。OTC薬の服用状況も聞き取り、患者が副作用の疑われる症状を訴えたとき、 それが薬剤性なのかどうかを疑うことから始める必要がある。
薬の相互作用で最も問題になるのはSU薬であろう。頻度的にはそれほど多くないようだが、代謝系が競合する抗菌薬(マクロライド系、ニューキノロン系、抗真菌薬など)との併用はSU薬が蓄積して低血糖を起こすことがあるといわれる。DPP-4阻害薬とSU薬の併用も重篤な低血糖による意識障害のリスクを伴う。「糖尿病治療ガイド2018-2019」によれば、「SU薬で治療中の患者にDPP-4阻害薬を追加投与する場合、SU薬は減量が望ましい。とくに65歳以上の高齢者、軽度腎機能低下、あるいは両者が併存する場合には、DPP-4阻害薬追加の際にSU薬の減量を必須とする」と記述している。
シックデイの対処方法を伝えることも重要だ。糖尿病患者が治療中に発熱、下痢、嘔吐をきたし、または食欲不振のため食事ができないときをシックデイという。血糖コントロールが良好な患者でも著しい高血糖をきたしケトアシドーシスになることがあるため注意が必要だ。ふだんから体重を測定するよう指導しておくと、おおよその脱水の程度を推定することができる。次のような症状がみられる場合には医療機関を受診するように注意喚起する。①発熱、消化器症状が強い、②24時間にわたって経口摂取ができない、または経口摂取が著しく少ない、③血糖値350mg/dL以上の持続、血中ケトン体高値、尿中ケトン体強陽性のとき、④意識状態の悪化がみられるとき。ビグアナイド薬やSGLT2阻害薬はシックデイの間は中止し、α-グルコシダーゼ阻害薬は消化器症状が強いときは中止する。インスリン分泌促進薬は食事摂取が不良のときは調整が必要なため医療機関に相談する。チアゾリジン薬はシックデイの間は中止することができる。
糖尿病治療薬については、病院が独自に作成している説明書からメーカーが作成しているパンフレットまで、患者向けにさまざまなものがある。しかし、それらの説明書を読んでも「患者さんが納得して服用していただいているかどうかは疑問。納得してもらうためには対面して説明することが大切」だと、同病院薬剤師は口を揃える。どういう説明をしたら理解、納得してもらえるかは、個々の患者によって違うため、患者の反応をみながら個別に対応していくことが必要である。

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