
Part.2 患者の声は些細なことも聞き逃さず踏み込んだ対応を
化学療法では見られなかった副作用に注意
従来、メラノーマの薬物治療ではダカルバジンをはじめ数々の細胞障害性抗がん剤が使われてきた。細胞障害性抗がん剤はがん細胞だけでなく正常細胞にも影響を与えるため、吐気・嘔吐、食欲不振、下痢、手足のしびれ、肝機能障害、腎機能障害、脱毛、倦怠感、白血球減少、血小板減少、貧血など多彩な副作用が出現する。患者の中には、薬物治療に対して必要以上に副作用を気にして治療を拒んだり、中断したりする例もある。こうした患者に対して薬剤師は、効果と副作用、支持療法など薬物治療に関して丁寧に説明し、正しい理解を促すことが求められる。
免疫チェックポイント阻害剤は細胞障害性抗がん剤に比べて副作用の出現頻度は低いとされている。国立がん研究センター中央病院薬剤部の前田誠氏によると、比較的多く見られる大腸炎関連の下痢でも発生頻度は10%に満たないほどで、間質性肺炎はさらに低く2%程度、肝機能障害などは症状として気づきにくく、患者によっては黄疸が現れて初めて発見されることもあるという。「化学療法では見られなかった副作用には注意が必要です。たとえば劇症I型糖尿病など、従来の薬物治療で経験したことがない有害事象が発生する可能性を念頭に置いた管理が重要となります」と前田氏は指摘する。
免疫チェックポイント阻害剤の副作用の出現時期は投与後2週間から8週間ごろが比較的多いが、投与直後や最終投与から数ヵ月して出現することもあるという。同病院では、看護師が医師の診察前に患者から情報を収集し、副作用チェックリストで医師、薬剤師と共有している。免疫チェックポイント阻害剤を使用している患者に対して、〈いつどのような副作用が出現するかわからない〉〈副作用によっては緊急処置が必要な場合もある〉といった注意事項を伝え、異変に気づいたらすぐに連絡するように伝えている。
また、相互作用にも目を光らせている。とくにダブラフェニブはCYP2C8、CYP3A4で代謝され、CYP2C9、CYP3A4を誘導するため、併用注意となる薬剤が多数ある。これらの酵素に関連する薬剤は種類が多く、前田氏はその都度確認するという。
患者の生活に合わせて具体的な対策を提案
服薬方法について患者の理解が不十分だと思わぬ事故を招くリスクがある。たとえば、ダブラフェニブは1回150mgを1日2回、空腹時に経口投与する。トラメチニブはダブラフェニブと併用する場合、1回2mgを1日1回、空腹時に経口投与する。一般的な薬と服用方法の異なる治療薬は慣れないと飲み忘れなど誤用する可能性が大きい。また、トラメチニブは冷蔵保管する必要があり、薬剤管理を含めたきめ細やかな服薬指導を要する。
「たとえば患者さんの生活に合わせて具体的な時間を提案することでアドヒアランスの向上が期待できます」と前田氏はいう。