特集

日本の国民病 スギ花粉症

2019年3月号
日本の国民病 スギ花粉症の画像

2019年のスギ花粉シーズンは、舌下免疫療法がついに5年目を迎えます。今や日本の国民病といわれているスギ花粉症。 くしゃみや鼻水で春の訪れを感じる方も多いのではないでしょうか。日本医科大学耳鼻咽喉科学教室准教授の後藤穣氏に、舌下免疫療法のコツや、ベーシックなスギ花粉治療、今のスギ林の樹齢などを教えてもらいました。

4人に1人のスギ花粉症 今や2人に1人とのデータも

発作性、反復性のくしゃみ、水様性の鼻汁、鼻閉を主症状とする花粉症は、植物の花粉を抗原として発症するI型アレルギー疾患で、抗原となる植物の花粉が飛散する期間にのみ症状が現れる季節性のアレルギー性鼻炎です。原因となる主な抗原としては、スギ、ヒノキ、ハンノキ、シラカンバ、イネ科、ブタクサなどがありますが、日本で最も患者数が多いのがスギ花粉症です。
スギ花粉症は日本特有の花粉症(英名:Japanese Cedar Pollinosis)で、アメリカに多いブタクサ花粉症、ヨーロッパに多いイネ科花粉症と並んで、世界の3大花粉症とされています。日本では、スギ花粉症が初めて報告されて以来50年あまりの間に患者数は年々増加し、2008年の調査1)ではスギ花粉症の有病率は26.5%と報告されました。つまり日本人のおよそ4人に1人がスギ花粉症ということになります。現在では、有病率のさらなる上昇についても指摘されています。全国調査ではありませんので日本全体の有病率とまではいえませんが、東京都が2017年12月に公表した花粉症患者実態調査報告書では、都内3区市の住民を対象としたアンケート調査と検査の結果から推計したスギ花粉症の推定有病率は48.8%と報告されています。

患者数増加には全国のスギの樹齢が関係 有病率の上昇はしばらく続く見込み

ここまでスギ花粉症患者が増加した背景には、北海道と沖縄を除く全国各地に広がるスギの人工林において、花粉を多く生産する樹齢のスギが増えたことが挙げられます。日本では戦後の高度経済成長による建築用木材の需要増大により、各地で大量にスギ・ヒノキの植樹が行われました。しかし、その後高度経済成長の終焉とともに木材の需要が低下したこと、より安価な海外産の木材が流通するようになったことなどから、国内のスギの伐採量は減少し植樹されたスギはそのまま放置されることになりました。その結果、花粉を大量に放出する樹齢25年以上のスギが現代に多く残されました(図1)。つまり、抗原となるスギ花粉の飛散量増加に比例するように、スギ花粉症患者は増加の一途をたどったのです。
スギの花粉放出は樹齢100年まで勢いは衰えないこと、スギ花粉症発症年齢の低年齢化がみられること、自然寛解が少ない疾患であることなどから、スギ花粉症は今後も有病率の上昇が続くといわれています。林野庁では、花粉発生源対策として、雄花を全く着けないかごくわずかしか着けずほとんど花粉を出さない「少花粉スギ」や、雄花は着けても花粉を全く出さない「無花粉スギ」の開発と苗木の普及という取り組みを進めています。しかし、植樹されるスギ苗木全体に占める花粉症対策スギの苗木の割合は非常に低く、また、現在あるスギを全てそのようなスギに植え替えるには膨大な年月がかかるといわれていますので、残念ながら現代のスギ花粉症の軽減に直結するものではないといわざるをえません。

図1 スギ・ヒノキ人工林齢級別面積

図1 スギ・ヒノキ人工林齢級別面積の画像

林野庁業務資料(平成24年3月31日)より転載

花粉症の病態 免疫反応の制御機構が低下

ここで、簡単に花粉症の病態を紐解いてみましょう。花粉症はI型のアレルギー性疾患といわれています。生体内に異物が侵入すると、異物を排除するなど生体の恒常性を保つために免疫システムが働きます。これは、本来正常な生体の防御機構ですが、この免疫応答が即時的に過剰になるのがI型アレルギー反応です。花粉が体内に侵入したからといって全ての人で感作が成立するわけではありません。前述の通り、異物を排除しようとする働き自体は正常な免疫応答です。健常人では、この反応が過剰とならないように、制御性T細胞(Treg)を始めとした制御性の細胞や、それらの細胞が産生する抑制性サイトカインが免疫反応にブレーキをかける制御機構として働き、免疫の恒常性が保たれています。一方、花粉症では、こうした制御機構が低下しているといわれています。

花粉症の治療の基本は抗原回避 根治を目指すアレルゲン免疫療法も

通年性も含め、アレルギー性鼻炎全体の約95%は抗原が同定されますので、まずは抗原の除去と回避が最も重要となります。完全な抗原除去、回避は不可能でも、セルフケアにより曝露量を減量させるように指導することが重要となります。鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版に記載されているスギ花粉の回避としては、①花粉情報に注意する、②飛散の多い時の外出を控える。外出時にマスク、メガネを使う、③表面がけばだった毛織物などのコートの使用は避ける、④帰宅時、衣服や髪をよく払ってから入室する。洗顔、うがいをし、鼻をかむ、⑤飛散の多い時は窓、戸を閉めておく。換気時の窓は小さく開け、短時間にとどめる、⑥飛散の多い時のふとんや洗濯物の外干しは避ける、⑦掃除を励行する。特に窓際を念入りに掃除する、の7項目があります。
また、抗原の除去と回避に加え、症状緩和や発作予防のために薬物療法を行います。しかし、薬物療法はあくまでも対症療法であり、花粉症を根治させる治療ではありません。根治や長期寛解を期待できる唯一の方法はアレルゲン免疫療法です。薬物療法とアレルゲン免疫療法は、拮抗または重複する治療法ではありませんので、薬物療法で一時的な症状を改善させながら、アレルゲン免疫療法で疾患の根治を目指していきます。

薬物療法 第2世代抗ヒスタミン薬と鼻噴霧用ステロイド薬

薬物療法では、重症度(表1)や病型に応じて薬剤を選択しますが(表2)、いずれにしても第2世代抗ヒスタミン薬や鼻噴霧用ステロイド薬は花粉症の治療に欠かすことのできない薬剤です。これらにプラスして、鼻閉がある場合には、ロイコトリエン受容体拮抗薬や第2世代抗ヒスタミン薬と血管収縮薬の配合剤、点鼻用血管収縮薬などを用いて治療します。以下に、抗ヒスタミン薬、鼻噴霧用ステロイド薬、点鼻用血管収縮薬についての留意点をご紹介します。

抗ヒスタミン薬

初期に開発された第1世代抗ヒスタミン薬は、即効性はあるものの効果の持続が短く、中枢神経抑制作用による鎮静や認知機能低下、眠気などが強いという問題点がありました。これを改善したのが1980年以降に開発された第2世代抗ヒスタミン薬です。さらに1990年代以降に発売された第2世代の抗ヒスタミン薬は、脳内移行性が低い非鎮静性の薬剤が多く、現在の処方としてはこれらの非鎮静性の抗ヒスタミン薬が中心となります。
しかし、第2世代の非鎮静性の薬剤でも、眠気を催すことがある旨が添付文書に記載されている薬剤もあります。日常的に自動車の運転などを行う患者さんでは、フェキソフェナジン…

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