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特集

フレイルに備える

2017年9月号
フレイルに備えるの画像

超高齢社会に突入した日本では、高齢者の健康寿命を長く保ち、要介護状態になるまでの時間を先送りすることが重要になっています。これまでは「歳のせい」として見過ごされてきた心身の衰えを、「健康」と「障害」の狭間にある「フレイル」という概念で位置付けることで、早めに警鐘を鳴らし、有効な介護予防につなげる試みがなされています。フレイル高齢者に対しては、多剤併用(ポリファーマシー)の改善などで、薬剤師が関われることも多くあります。今特集では、フレイルに関する最新の知見について、国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターフレイル予防医学研究室 老年内科 医学博士の佐竹昭介先生に解説していただきます。

日本老年医学会がフレイルを提唱

2014年5月、日本老年医学会は、従来「老衰」や「虚弱」と呼ばれていた、加齢に伴う衰えを、「フレイル」という用語に統一するという声明を発表しました。この用語は、「か弱さ」を示す英語の「frailty」に由来し、欧米で老年医学的意味が付与され概念化されたものです。
フレイルは、どのような背景で、登場してきたのでしょうか。
心身の状態を「健康」と「障害」という概念で捉えた場合、障害を起こしやすい高齢者の一部が、「虚弱」や「老衰」と表現されていました。しかし、これらは「歳のせい」だから仕方がないというニュアンスを含み、不可逆的でマイナスのイメージがあるため、それを払拭し、積極的に介護予防に努めてもらうよう意識改革を促すために、用語が改訂されました。

超高齢社会におけるフレイルの重要性

我が国における65歳以上の高齢者は、2014年10月時点で3300万人(人口の26.0%)に達し、国民の約8人に1人(12.5%)が75歳以上の後期高齢者です。平均寿命も、男性80.21歳、女性86.61歳と世界トップレベルですから、後期高齢者になってからの人生までも視野に入れた健康管理が必要になります。
年齢別の介護要因(2010年「国民生活基礎調査」)を見ると、前期高齢者では脳卒中が約半数を占めますが、後期高齢者における要介護の主な原因は、加齢に伴って、衰弱、すなわちフレイルに置き換わっていきます(図1)。
健康寿命を延伸して健康長寿社会の実現を目指すために、フレイルという概念が重要な役割を持っており、その予防や対策に注目が集まっています。

図1 年齢別の介護要因

図1 年齢別の介護要因の画像

平成22年国民生活基礎調査: 厚生労働省

健康寿命を延伸して健康長寿社会の実現を目指すために、フレイルという概念が重要な役割を持っており、その予防や対策に注目が集まっています。

高齢者は臓器別医療でなく包括的・全人的医療

65歳以上の高齢者は、複数の疾患を併せ持つことが多いのに加えて、加齢に伴って身体機能が低下してくるため、若年者とは異なる病態をしばしば呈してきます。このため、高齢者の健康管理は、臓器別の疾患概念や治療指針だけではうまくいかないことがしばしばあります。高齢者医療は、包括的・全人的医療であり、臓器別医療とは異なるパラダイムに属していると言えます。
若年者の中で「障害」に至る危険が高いのは、「何らかの疾患を有する人(有病者)」です。しかし、高齢者の場合は、必ずしも有病者ばかりでなく、疾患という概念では捉えきれない、身体機能低下や精神的疲労を有する人々も存在しています。このような障害を起こしやすいハイリスク高齢者を「フレイル」と呼び、「健康」と「障害」の中間に位置付ける視点が重要になっています。

日本では身体障害はフレイルに含めない

フレイルの概念には、身体障害を含めるという考え方と、身体障害とは区別して前障害状態と捉える考え方があって、今でもなお議論があります。
例えば、「Clinical Frailty Scale」は、カナダの加齢と健康調査(Canadian Study of Health and Aging)において用いられた評価方法で、そこには身体障害や終末期までも含まれます。
しかし、日本などで用いられているフレイルには、身体障害は含まず、前障害状態までという位置付けにしています。
坂道にたとえれば、フレイルは、「健康」と「身体機能障害」の中間段階にある状態です(図2)。命が尽きるまでを生物学的寿命とすると、フレイルは、自立して自分のことができる健康寿命の期間に相当しますが、もうすぐ障害を来す危険の高い人たちと考えることができます。機能低下が進み自分のことが徐々にできなくなって、境目を越えて「身体機能障害」に至ってしまえば、坂道を後戻りするのはさらに困難になってきます。

図2 フレイルの位置付け

図2 フレイルの位置付けの画像

葛谷雅文: 日本老年医学会雑誌 2009; 46(4): 279-285より改変

こうして、将来的な介護予防という視点を反映させながらも、フレイルは、寝たきりになる手前で踏みとどまっていて改善がまだ期待できる段階であり、よりポテンシャルが高い状況だと捉えてもらうことが大切なのです。
もう歳だから仕方ないと諦めるのではなく、運動や栄養などの介入、ちょっと生活習慣を変えたり、あるいは多剤併用(ポリファーマシー)の状況を改善したりすることで、まだまだ自立した期間を延ばせるというのが、フレイルの概念で最も重要なことです。最終的には本人の選択ですが、「フレイル」の警鐘を鳴らすことにより、生活態度がいい加減になっている人たちが、寝たきりや認知症になるのは嫌だと考えて、生活を改めるきっかけにすることにもなります。

恒常性維持機構がバランスを保てなくなる

脆弱な高齢者を表現するフレイルは、臨床的によく見られる状態であるにもかかわらず、長らく学術的に定義することは困難でした。
2004年と2006年に「フレイルと加齢に関する国際会議」が開催され、「フレイルとは相互に関連する複数の生理系を調節する恒常性維持機構の衰えのため、些細なストレスにより障害を受けやすい脆弱な状態である」と表現されました。
生体には複数の生理系が存在し、それぞれの生理系は常にバランスが保たれています。個々の臓器だけでなく、例えば消化器系や呼吸器系など様々な生理系が、生体の中で調和しながら生命活動を営んでおり、それを制御しているのが、恒常性維持機構(Homeostatic mechanism)という仕組みです。
健康な状態では、この恒常性維持機構が個々の生理系をうまく調和させバランスを保っていますが、そのバランスに障害が生じると、疾患が発症してきます。
若年者の場合、ストレスや疾患によって1つの生理システムに一定の破綻がもたらされても、一般にその他の多数の系は崩れることなく恒常性を維持し続けることができます。
これに対してフレイル高齢者は、若年者の場合とは異なり、恒常性維持機構の衰えのため1つの系の障害に留まらず、複数の系に損傷が起こってきて、臨床症状や障害として表在化するのです。
例えば、熱が出て食事が摂れなくなり、2~3日寝込んだとしましょう。若い人であれば、何ごともなかったように回復して、再び恒常性維持機構が保てるようになります。一方、フレイル高齢者は、足腰が立たなくなる、排尿管理ができなくなる、さらに認知機能の低下まで起こしてくるなど、坂道を転げ落ちるように身体症状が悪化していくことがあります。
フレイル高齢者では、複数の系にまたがる恒常性維持機構が脆弱化しているため、ストレスによる障害を受けやすく、復元力(レジリエンス)が低下して回復しづらい状況になっているのです。

暦年齢と生物学的年齢の違い

加齢と共に誰もが衰えていきますが、暦年齢という視点で見た場合、健康状態は様々です。例えば、90歳になってもスキーを楽しめる方もいれば、そこまで生きることができない人もいます。また、寝たきりになってしまったり、足腰がおぼつかない人もいます。暦年齢は、大局的に生命予後に影響しますが、高齢者における健康寿命の予後予測にはあまり大きく影響しません。
だからこそ、その人の健康寿命に関連する指標が重要で、それがフレイルなのです。例えば、多くの疾患が併存していると身体的障害にもつながり、フレイル状態に陥ります。しかし、疾患を抱えていても、きちんと健康管理をしている人の場合はフレイル状態に陥る危険が少なくなります。
高齢者は、65歳になったから、急に衰えるというわけではありません。加齢と共に生じる老化の進み具合、いわゆる生物学的年齢は、遺伝要因だけでなく、長年の生活習慣や環境要因による影響をより大きく受けるとされ、これがフレイル状態に反映されてくると考えられています。

フレイルの診断 障害蓄積モデルと表現型モデル

フレイルには、大きく2つの捉え方があります。
まず、1つは、「加齢に伴ってもたらされる有害事象の誘因となる疾患、生活動作障害、身体活動障害の集積」と捉える「障害蓄積モデル(accumulated deficit model)」です。もう1つの「表現型モデル(phenotype model)」は、「身体の衰えにより表出してくる一連の兆候」を捉えるものです。
「障害蓄積モデル」は、カナダのRockwoodらが提唱したもので、フレイルとは、様々な身体能力、疾患、生活機能などの困難性や障害の積み重ねにより生じるものという考え方です。そこでは、日常生活動作、健康度、併存症、身体能力など30以上の項目を評価して算出する「Frailty Index」によって評価されます。
一方、「表現型モデル」は、米国のFriedらが提唱したもので、身体的機能評価が主体となるため、身体的フレイルの評価法と位置付けられています。①体重減少、②倦怠感・疲労感、③活動性の低下、④筋力の低下、⑤動作の緩慢さ(歩行速度の低下)の5つのうち3つ以上を有する場合はフレイル、1つまたは2つに該当する場合はプレフレイルと評価するのが妥当であるとしています。表1に示した基準は、表現型モデルに基づいて、日本で用いやすく修正したフレイル評価です。

表1 フレイルの評価基準
評価項目 評価基準
1. 体重減少 「6カ月間で2~3kg以上の(意図しない)体重
減少がありましたか?」に「はい」と回答
した場合
2. 倦怠感 (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする」に「はい」と回答した場合
3. 活動量 「軽い運動・体操(農作業も含む)を1週間に何日くらいしていますか?」及び「定期的な運動・スポーツ(農作業を含む)を1週間に何日くらいしていますか?」の2つの問いのいずれにも「運動・体操はしていない」と回答した場合
4. 握力 利き手の測定で男性26kg未満、女性18kg未満の場合
5. 通常歩行速度 (測定区間の前後に1mの助走路を設け、測定区間5mの時間を計測する)1m/秒未満の場合

長寿医療研究開発費 平成26年度 総括報告書
フレイルの進行に関わる要因に関する研究(25-11) 国立長寿医療研究センター

フレイル評価の有用性は、Friedらが、米国の地域在住高齢者約5000人を対象として、7年間追跡調査したCardiovascular Health Study(CHS)において示されました(表2)。フレイルに該当した人は、健常者に比べて、転倒の発生は1.3倍、移動能力の悪化は1.5倍、ADL障害の悪化は2.0倍、死亡も2.2倍になっていました。フレイル群の人たちは、あたかもがんなどを患っているのと同じように、生存率が悪化していきます。そうした傾向は、年齢や基礎疾患や生活状態などを調整しても変わらず、フレイル評価の妥当性と有用性が示されています。

表2 フレイルの有無による3年間の健康障害
健康障害の事象 相対危険度
転倒の発生 1.3倍
移動能力の悪化 1.5倍
ADL障害の悪化 2.0倍
初回入院 1.3倍
死亡 2.2倍

Fried LP, et al: Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol
Sci Med Sci. 56(3): M146-156, 2001

学術論文では「表現型モデル」に準じた基準を用いたものが7割弱と大勢を占めますが、フレイルは身体的な問題のみならず、精神的、社会的な側面も持ち合わせているため、これらの評価を含む総合的機能評価を重視する考え方もあります。

介護予防のための基本チェックリスト(KCL)

実は日本にも、独自のフレイルスクリーニング法があります。2006年の介護保険制度の改定の際に、近い将来介護が必要になる高齢者を抽出して介護予防プログラムに組み入れるためのスクリーニング法として、厚生労働省の研究班により「基本チェックリスト(KCL)」という自記式質問表が開発されました(表3)。

表3 基本チェックリスト(KCL)
No. 質問項目 回答
(いずれかに○を
お付けください)
1 バスや電車で1人で外出していますか 0. はい 1. いいえ
2 日用品の買い物をしていますか 0. はい 1. いいえ
3 預貯金の出し入れをしていますか 0. はい 1. いいえ
4 友人の家を訪ねていますか 0. はい 1. いいえ
5 家族や友人の相談にのっていますか 0. はい 1. いいえ
6 階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか 0. はい 1. いいえ
7 椅子に座った状態から何もつかまらずに立ち上がっていますか 0. はい 1. いいえ
8 15分位続けて歩いていますか 0. はい 1. いいえ
9 この1年間に転んだことがありますか 1. はい 0. いいえ
10 こ転倒に対する不安は大きいですか 1. はい 0. いいえ
11 6カ月間で2~3kg以上の体重減少がありましたか 1. はい 0. いいえ
12 身長    cm  体重    kg (BMI=    )(注)
13 半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか 1. はい 0. いいえ
14 お茶や汁物等でむせることがありますか 1. はい 0. いいえ
15 口の渇きが気になりますか 1. はい 0. いいえ
16 週に1回以上は外出していますか 0. はい 1. いいえ
17 昨年と比べて外出の回数が減っていますか 1. はい 0. いいえ
18 周りの人から「いつも同じことを聞く」などの物忘れがあると言われますか 1. はい 0. いいえ
19 自分で電話番号を調べて、電話をかけることをしていますか 0. はい 1. いいえ
20 今日が何月何日かわからない時がありますか 1. はい 0. いいえ
21 (ここ2週間)毎日の生活に充実感がない 1. はい 0. いいえ
22 (ここ2週間)これまで楽しんでやれていたことが楽しめなくなった 1. はい 0. いいえ
23 (ここ2週間)以前は楽にできていたことが今ではおっくうに感じられる 1. はい 0. いいえ
24 (ここ2週間)自分が役に立つ人間だと思えない 1. はい 0. いいえ
25 (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする 1. はい 0. いいえ

(注)BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)が18.5未満の場合に該当とする。

対象は、認知症や身体障害による要介護状態にない高齢者を想定しています。KCLの質問は、生活機能状態を尋ねる25項目からなります。質問項目は、手段的日常生活動作(IADL)、身体機能、栄養状態、口腔機能、閉じこもり、認知機能、気分の7つの領域で総合的に機能評価ができます。回答時間も10~15分程度で済むため、大規模スクリーニングのみならず外来の待ち時間に実施することも可能です。
世界に最も先駆けて行われたフレイル予防事業でしたが、残念ながら、当時はフレイルという概念がまだ導入されていなかったので、老年医学的な意味合いや解釈が十分に行われていませんでした。また、介護予防事業を国の施策として実施してきた自治体は、費用対効果の面で利点を見出せず、対応方法を模索しているのが現状です。しかし、KCLはフレイルスクリーニングとして有用で、海外でも自国の言語に翻訳して検証されたりしています。ただし、KCL含め、世界中で様々なフレイル評価法が提唱されていますが、現在のところ、フレイルの診断として統一された基準はありません。

社会的フレイル・精神的フレイル

フレイルは、身体機能以外にも「社会的」あるいは「精神的」フレイルという状況があります。
身体機能が衰えれば、当然のように気分が落ち込みやすくなり、社会的な問題も生じてきます。主体となる障害は人それぞれです。例えば、移動機能が低下している人は、段々自分で買い物に行かなくなり、外部との交流が減り、足腰が弱まってふらつきを起こし、食事も疎かになって体重も減ってしまうということがあります。
また、当初は、社会的フレイルで引きこもりがちだったのが、段々と身体的フレイルに陥って、メンタル面も落ち込んで、さらに活動が低下することもあります。「身体的」「社会的」「精神的」の入り口がどこかは人それぞれですが、ある一定以上進むと、それらが三位一体となって加速度的にフレイルを悪化させていきます。

サルコペニアはフレイルの中核病態

一方、フレイルの中核病態として注目されているのが、サルコペニアです(図3)。サルコペニアとは、加齢に伴って筋肉量や筋力が低下し、転倒から寝たきりに至る危険が高い状態です。

図3 サルコペニア→フレイルの過程

図3 サルコペニア→フレイルの過程の画像

Cruz-Jentoft AJ, et al: Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 13(1): 1-7, 2010より改変

サルコペニアは筋肉量減少を主体としますが、筋肉量の減少がなくても、筋力または歩行速度が低下している場合は、ダイナペニア(筋力低下症)と呼んでいます。フレイル高齢者は、サルコペニア、またはダイナペニアのいずれかを呈することが多いと考えられます。
フレイルやサルコペニアは、健康長寿の妨げになるものとして大いに注目されています。疾病の管理と共に、生活機能障害を招く状況に対応していくことが大切なのです。

うつ病や認知症とフレイルの関係

うつ病の人は、フレイルと同じような症状を示すことがあります。しかし、それをフレイルと捉えるべきか否かについては、まだ明確な考え方は示されていません。
また、認知機能が低下した人の場合も、フレイルの中にどう位置付けていくかについて議論があり、決着が付いていません。近年の研究報告では、歩行速度が低下している人やサルコペニアを有する人は、脳の機能が低下していることが多いとされ、身体機能と脳機能の間には、ある程度相関があると考えられています。

フレイルの予防は栄養と運動が両輪

フレイルに陥ったり、その進展を予防するための健康管理には、バランスの良い食事(栄養摂取)と運動習慣の確立という、生活習慣の改善が重要になります。栄養面では、メタボ対策を意識するあまり、高齢になっても体重増加を懸念する人が多いのですが、そこでギアチェンジできないと低栄養に陥ってしまう危険があります。
疫学調査においては、体格指数(BMI)がやや高めの人の方が、余命が長いことが示されています。例えば、糖尿病の方で、血糖コントロールが必要だからと、痩せているにもかかわらず必要以上に食事制限をしていると予後を悪くする危険も考えられます。カロリー過多には注意が必要ですが、単に量だけではなく、バランスや内容にまで注目していかないと、体が衰弱していくだけという結果になってしまうことがあります。
イタリアの地域在住の65歳以上の高齢者802人を対象にした栄養摂取状況調査から、フレイルと関連する栄養素が報告されています。不足するとフレイルの危険が増加する栄養素として、たんぱく質、ビタミンD、抗酸化ビタミン(ビタミンCやE)、葉酸などが挙げられています(表4)。

表4 栄養素の不足とフレイルの危険度
不足する栄養素 不足の基準量 フレイルの危険度
たんぱく質(g/日) 男性<66g、女性<55g 1.98倍
ビタミンD(μg/日) 男性<1.4μg、女性<1.1μg 2.35倍
ビタミンE(mg/日) 男性<5.1mg、女性<4.5mg 2.06倍
ビタミンC(mg/日) 男性<75.2mg、女性<73.6mg 2.15倍
葉酸(μg/日) 男性<214μg、女性<184μg 1.84倍

Bartali B, et al: J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 61(6): 589-593, 2006より改変

たんぱく質の積極的な摂取で筋力維持

とりわけ、たんぱく質は、従来よりも積極的な摂取が推奨されるようになっています。ただし、腎臓が悪くないことが前提になります。
たんぱく質摂取とフレイルの関連については、米国の約2万4000人の女性を対象とした調査において、摂取エネルギー当たりのたんぱく質摂取比率が高い群ではフレイルの発症率は低く、低い群ではフレイルの発症率が高いと報告されています。日本でも、約2000人の高齢女性を対象とした多施設横断研究において、たんぱく質摂取総量が高いほど、フレイルの発症率は低いという報告があります。
また、サルコペニアにおいては、近年、加齢に伴う骨格筋における筋蛋白同化抵抗性が原因の1つとして指摘されています。
このような抵抗性への対策という観点で、たんぱく質の1日推奨栄養所要量は、従来の0.8g/kgから1.0〜1.2g/kgに修正されています。また、十分にたんぱく質を摂っていても摂取エネルギーが少ないと、せっかく摂ったたんぱく質はエネルギーとして使われてしまうので、エネルギーとたんぱく質は、どちらも十分摂取することが大切です。なお、筋力トレーニングをすると、摂取したたんぱく質の筋肉合成への利用効率が高まることが分かっています。

カルシウム・ビタミンDが骨にも有用

フレイル予防には、丈夫な骨と筋肉を維持することが重要です。骨・軟骨や筋肉は分解と形成を繰り返して作り変えられることでその機能が発揮されますが、そのためには、たんぱく質に加えて、カルシウム、ビタミンDの摂取が必要です。我が国の60歳以上の平均摂取量はカルシウムで560mg程度、ビタミンDで9.3μgと、骨粗鬆症ガイドラインの推奨量より低い状況です。
観察研究では、低ビタミンD血症が筋肉量の減少と関連性があることが報告されており、ビタミンDの不足とサルコペニア発症、またフレイルとの関連を示唆する報告もあります。
また、近年は、個々の栄養素摂取よりも、栄養のバランス(質)が良いとフレイルの発症率が抑えられるという点にも注目されています。

運動は筋肉の衰えを改善し骨密度を上げる

運動不足はフレイルの主要な原因であり、筋力低下やバランス障害を招き、転倒や外傷の引き金となって、さらにフレイルを悪化させます。
フレイル高齢者には、歩行を含めた運動習慣の獲得が重要で、極端な低栄養がない限り、運動によって骨密度の維持・上昇も期待できます。
元々活動性が低い人では、筋トレにこだわらなくても、まず、動く機会を作るということが重要です。
運動の内容は、筋トレやバランストレーニングがあったり、有酸素運動があったりと様々な要素が入っていることが望ましいのですが、それを日常生活にどう取り込んでいくかが課題と言えます。
例えば、毎食前にハーフスクワット運動などを習慣付ける方法もあります。これは、椅子に座って、机に両手をついた状態で腰を浮かし、膝を曲げたまま中腰の姿勢を取る運動です。その状態を10秒間ぐらい保った後、立ち上がることを、10回ぐらい行います。転倒に備え、キャスターのない安定の良い椅子を後ろに置き、安全を確保するといった注意も必要です。
運動と構えなくても、きちんと家事をしたり、外出する機会を増やすことは重要です。外出すれば日光も浴びて、ビタミンDが活性化され、骨が強くなるという効果も期待できます。社会性が失われないよう、外出して交流する機会を増やすことは、身体機能のみならず、認知機能の維持・改善にも大切です。

フレイル高齢者はポリファーマシーが多い

フレイル高齢者は、ポリファーマシーであることが多いと言われています。その背景には、併存症が多いため処方薬が増えると考えられます。これらの結果は、フレイル高齢者が、心配事や不安を抱えやすかったり、自律神経障害による便秘や入眠障害を合併しやすいことを示しています。
日本は、医療にフリーアクセスできるので、複数の医療機関で多くの薬をもらい、相互作用によって不調を来しフレイル状態に陥るということもあり得ます。入院患者の場合は、薬剤師を含めて多剤服用のチェックを行うことで、適切な減薬につなげる機会を作りやすくなります。外来患者の場合にも、「お薬手帳」を薬局が一元管理することで、こうした状況を改善できる可能性があります。日本老年医学会の『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』などを参照したり、コンプライアンスの点から1日の服薬回数がより少ない薬に変えたり、合剤にできないかなど、医師と薬剤師が話し合いを持つことも重要でしょう。また、医療費の無駄をなくすという点から、残薬問題に介入していくことも必要です。

多職種の関わりで気配りしていく

身体機能も認知機能も衰えてきた高齢者の生活は、環境に依存することになります。医師は慢性疾患の医学的管理が主体になるため、とくにフレイル高齢者に対しては、栄養士、薬剤師、リハビリスタッフ、さらにはソーシャルワーカーなどの福祉職が関わって、多面的に介入することが重要になってきます。例えば、独居になってしまった人に対してソーシャルワーカーがサポートし、社会資源を活用して良い生活環境を作り出し、心の元気を回復させたり、認知機能が衰えていないかなどメンタル面で配慮することも必要です。
身体機能を改善するだけではなく、薬を適正化したり、食生活を改善したり、仲間作りをしたりすることが重要と考えられ、今後その効果を科学的に検証していかなければなりません。
自分で服薬できるか、食事が摂れているかということをきちんと評価して、改善可能な点に介入していくことで、高齢者が自立して生活できる期間を延ばし、ひいては介護費用などが削減されるという社会的な効用もあると考えられます。フレイルとは、抽象的な概念ではありますが、自立機能の維持という観点から生活環境を見直す重要なきっかけを与えてくれるものです。

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