特集

乾癬の病態を理解し、臨床に活かす

2020年2月号
乾癬の病態を理解し、臨床に活かすの画像

赤く盛り上がった紅斑とその表面を覆うかさぶたのような白い鱗屑、それがフケのようにぼろぼろと剥がれ落ちる落屑。難治性であることに加えて外見上の問題からQOLが著しく障害される乾癬。近年、その免疫学的な病態が解明されつつあり、それに伴い薬物治療も大きく変容をとげています。長年乾癬の診療に携わる東京逓信病院皮膚科部長の三井浩氏に、乾癬のメカニズムや治療について解説していただきました。

増加する乾癬患者は国内で約50万~60万人特徴的な皮膚症状のほか、手足の指の腫脹や爪病変の場合も

乾癬はもともと欧米人に多い疾患とされていましたが、日本人の食生活が欧米化したことが影響しているのか、日本でも患者数は年々増加傾向にあり、現在では乾癬の患者数は約50万~60万人にのぼるともいわれています。境界明瞭な隆起性の紅斑とかさぶたのような厚い銀白色の鱗屑、それが剥がれ落ちる落屑といった特徴的な臨床所見を呈し、外見上の問題からもQOLが著しく低下する疾患とされています。「皮膚疾患=痒い」というイメージがありますが、乾癬で痒みがあるのは全体の5~6割程度です。皮膚が赤くなることからアトピー性皮膚炎と混同されることもありますが、よく見ると、雲母状の銀白色の鱗屑が乾癬の特徴的な症状であり、視診でほぼ診断が可能です。また、鱗屑を剥がすと点状に出血するアウスピッツ現象や、皮疹のない部位に機械的な刺激が加わると新たな皮膚病変が誘発されるケブネル現象が見られるのも乾癬特有です。肘や膝、腰や臀部など衣服による刺激を受ける部位や毛髪の刺激を受ける頭部などが乾癬の好発部位となっています。
こうした症状は、乾癬の約90%を占める「尋常性乾癬」の特徴ですが、他の症状を呈する乾癬もあります。直径1cm程度の小型の皮疹が急に全身に出現する「滴状乾癬」、未治療または不適切な治療などの影響により尋常性乾癬が増悪し皮膚全体の80%以上が赤くなる「乾癬性紅皮症」、発熱や悪寒に伴いうみを持った水疱が発現する「汎発性膿疱性乾癬」、中枢(腰)や末梢(手足)の関節に腫脹や疼痛を呈する「関節症性乾癬」です。末梢の関節炎を伴う場合、高率に爪病変(爪甲表面の点状の凹みや爪甲剥離、爪甲の混濁など)を伴います。

写真 乾癬

尋常性乾癬

尋常性乾癬の画像

膿疱性乾癬

膿疱性乾癬の画像

関節症性乾癬

関節症性乾癬の画像

乾癬の爪病変

乾癬の爪病変の画像

三井浩氏ご提供

乾癬はTh17細胞性の自己免疫疾患 他疾患に対する治療薬投与が病態解明のきっかけに

乾癬は炎症性角化症の代表的な自己免疫疾患ですが、近年、その病態にはT細胞のひとつであるTh17細胞性免疫の亢進が関わっていることがわかってきました。このTh17細胞が正式に同定されたのが2005年ですが、それ以前は、自己免疫疾患は、細胞性免疫を司るTh1細胞による免疫応答と、液性免疫を司るTh2細胞による免疫応答のバランスの破綻で生じる疾患と考えられており、乾癬はTh1細胞の免疫応答が過剰に働いたことによるものと想定されていました。しかし、Th17細胞という新しい免疫系の役割が解明されたことで、炎症性疾患として病態解明が大きく進んだのです。また、それまで乾癬の病態悪化に関与すると考えられていたTh1細胞は、逆に乾癬の病態を抑制する方向に働いていることがわかってきました。
Th17細胞が同定される以前は、乾癬の病態は、他の疾患に対する治療の副次的な結果により少しずつ解明されてきました。古くは、T細胞機能を強力に抑制する免疫抑制剤シクロスポリンの例で、肝臓移植を受けた乾癬患者の皮膚症状が、移植時に使用したシクロスポリンにより劇的に改善したことで、それまで表皮角化細胞の異常に基づく疾患ととらえられていた乾癬が、T細胞性免疫が関与する自己免疫疾患であると考えられるようになりました。また、骨粗鬆症の患者にビタミンD3を投与したところ、合併していた乾癬が軽快したことから、乾癬にビタミンD3が関与していることが考えられるようになり、ビタミンD3外用剤の開発が進みました。こうした中、Th17細胞の発見により乾癬の病態が整理され、今度は逆に病態から治療を考えられるようになってきたのです。実際に、乾癬を合併したクローン病患者に対するTNF-α阻害薬による治療で、乾癬の皮疹が劇的に改善したことなどから、乾癬の病態にTNF-αが深く関与していることが示されました。

乾癬の免疫応答 TIP-DCやTh17細胞のサイトカイン産生による悪循環

実際に乾癬ではどのような免疫反応が起こっているのか、その機序を整理してみましょう。乾癬の病変部では多数の樹状細胞が皮膚に浸潤しています。樹状細胞にもさまざまな種類がありますが、その中でも乾癬の病態に重要な役割を果たすのが腫瘍壊死因子のTNF-αを産生する樹状細胞TIP-DCです。外的刺激や感染などにより活性化したTIP-DCはTNF-αを産生し炎症反応を惹起しますが、それと同時にIL-23を産生します。IL-23はヘルパーT細胞のTh17細胞への分化を誘導し、Th17細胞から炎症性サイトカインであるIL-17、IL-22が産生されます。IL-17やIL-22は表皮角化細胞の炎症や増殖を引き起こし、表皮の好中球や単球、Tリンパ球からのTNF-α産生を誘導します。それによりTIP-DCがさらに活性化されます。また、TIP-DCから産生されたTNF-αはオートクリンにTIP-DCを活性化させますので、TIP-DC活性化、Th17細胞分化誘導、炎症性サイトカイン産生が悪循環のように続いてしまうのです。最終反応としては、表皮角化細胞が血管内皮細胞や好中球へもたらす影響も報告されています(図1)。かつては、Th1細胞やTh22細胞との関係について指摘されていましたが、現在では、IL-23からTh17細胞が分化するIL-23/Th17細胞の軸が、乾癬の病態において最も重要であると考えられています。

図1 乾癬の免疫学的機序

図1 乾癬の免疫学的機序の画像

飯塚一ほか. 皮膚アレルギーフロンティア. 7(3): 178-186, 2009
Nestle FO, et al. Nat Rev Immunol. 9(10): 679-691, 2009
より作成

免疫学的に生物学的製剤の特徴を理解 抗体の構造の違いによる効果の違いも

乾癬の病態形成の免疫学的機序が解明されるにつれ、病態形成に関わるサイトカインにターゲットを絞った生物学的製剤が次々と導入されました(表1)。抗TNF-α抗体は、免疫応答の初期の段階から関与するTNF-αを阻害しますので強力な作用を示します。ただし、TNF-αは腫瘍壊死因子として広範な作用を持つため、TNF-αの作用を阻害することは、乾癬に対する特異的な免疫制御とはいえない部分もあります。

表1 乾癬治療に用いられる生物学的製剤
一般名 製品名 種類 構造 投与経路 投与間隔
インフリキシマブ レミケード 抗TNF-α抗体 キメラ型抗体 点滴静注 初回投与後、2週後、6週後に投与し、以降8週間に1回
アダリムマブ ヒュミラ 抗TNF-α抗体 ヒト抗体 皮下注射(自己注射可) 2週間に1回
ウステキヌマブ ステラーラ 抗IL-12/23p40抗体 ヒト抗体 皮下注射 初回投与後、4週後に投与し、以降12週間に1回
セクキヌマブ コセンティクス 抗IL-17A 抗体 ヒト抗体 皮下注射(自己注射可) 初回投与後、4週後まで週1回投与し、以降4週間に1回
イキセキズマブ トルツ 抗IL-17A抗体 ヒト化抗体 皮下注射(自己注射可) 初回投与後、12週後まで2週間に1回投与し、以降4週間に1回
ブロダルマブ ルミセフ 抗IL-17受容体A抗体 ヒト抗体 皮下注射(自己注射可) 初回投与後、1週後、2週後に投与し、以降2週間に1回
グセルクマブ トレムフィア 抗IL-23p19抗体 ヒト抗体 皮下注射 初回投与後、4週後に投与し、以降8週間に1回
リサンキズマブ スキリージ 抗IL-23p19抗体 ヒト化抗体 皮下注射 初回投与後、4週後に投与し、以降12週間に1回

製品添付文書などをもとに編集部作成(2020年1月現在)

図1に示したとおり、IL-23はTh17細胞の分化を誘導します。このIL-23を標的とした抗体(抗IL-12/23p40抗体、抗IL-23p19抗体)は、T細胞の分化に関わるプロセスを阻害するため、効果発現までに多少時間がかかるのが特徴です。またIL-23は、IL-12共通のサブユニットp40とIL-23特異的サブユニットp19のヘテロダイマーですので、抗p40抗体の場合は、IL-23だけでなくIL-12も阻害します。そのため、Th1細胞の分化も阻害されることになります。一方で、サブユニットp19に対する抗体では、IL-12への影響はなく基本的にIL-23のみを阻害します。
図1に示したとおり、IL-23はTh17細胞の分化を誘導します。このIL-23を標的とした抗体(抗IL-12/23p40抗体、抗IL-23p19抗体)は、T細胞の分化に関わるプロセスを阻害するため、効果発現までに多少時間がかかるのが特徴です。またIL-23は、IL-12共通のサブユニットp40とIL-23特異的サブユニットp19のヘテロダイマーですので、抗p40抗体の場合は、IL-23だけでなくIL-12も阻害します。そのため、Th1細胞の分化も阻害されることになります。一方で、サブユニットp19に対する抗体では、IL-12への影響はなく基本的にIL-23のみを阻害します。
抗IL-17A抗体、抗IL-17受容体A抗体は、最終的に局所で乾癬病変を形成するIL-17の作用を阻害します。このことから、効果発現は比較的早いと考えられます。ただし、IL-17を含むTh17関連サイトカインは、皮膚、肺、腸管上皮などにおいて、細胞外寄生性細菌や真菌に対する感染防御に関与しているため、IL-17の抗体薬は皮膚や粘膜における感染リスク、特にカンジダ症などの真菌感染症のリスクを上昇させるといわれています。
また、抗体の構造の違いによっても効果に違いが出ます。抗体医薬品は主に、マウス抗体、キメラ型抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体の4種類に分類されます(図2)。キメラ型抗体はマウス抗体の定常部をヒト抗体に置換したもの、ヒト化抗体はマウス抗体の相補性決定領域(CDR)以外を全てヒト抗体に置換したものです。Fab領域にマウス抗体を使うほど標的分子との結合力は高くなりますが、その分、異物として認識されやすくなるため免疫原性が高くなり、抗体薬に対する中和抗体が出現する頻度が高まります。免疫原性は臨床的には二次無効として現れてきます。

図2 抗体の構造と種類

図2 抗体の構造と種類の画像

三井浩氏の話をもとに編集部作成

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