専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

がん緩和ケアPart.1 「がん緩和ケア」で必要な患者の心を開くコミュニケーションとは?

2018年1月号
がん緩和ケア Part1 基本的緩和ケアと専門的緩和ケアで患者一人ひとりのwell-beingを支えるの画像
がん患者が安心して暮らすことができる環境整備を盛り込んだがん対策基本法が2016年に改正され、2017年10月には第3期がん対策推進基本計画が閣議決定された。企業の中には通院のための短時間勤務、時間外労働の免除、治療のための休憩、治療費の補助など、がんの治療を受けながら働く人の支援制度を設ける例も出てきた。がん患者のADL、QOLがここまでよくなった背景にはチーム医療による緩和ケアの充実がある。がん緩和ケアに携わる薬剤師の役割や患者接遇のポイントなどについて、帝京大学医学部緩和医療学講座教授・診療科長の有賀悦子氏、同大学附属病院薬剤部の御澤勝将氏に伺った。

Check Points

緩和ケアには基本的緩和ケアと専門的緩和ケアがある。
基本的緩和ケアはすべての医療従事者が備える技術
薬の説明をしながら患者の様子を観察し、「夜は眠れますか」など
一言声かけを
患者が訴える痛みの性質を理解する。
痛みの強さは11段階スケールで評価する
医療用麻薬の効果と副作用を正しく理解し、患者の不安を解消する 多職種が連携し、患者の自己効力感を育てる緩和ケアを目指す

Part.1 基本的緩和ケアと専門的緩和ケアで患者一人ひとりのwell-beingを支える

“がんでも健康であることができる”

世界保健機関(WHO)は緩和ケアを「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティー・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を改善するアプローチである」と定義している。緩和ケアといえばがん患者を想起する人が多いが、がんに限らず生命を脅かす疾患による問題に直面している患者・家族が緩和ケアの対象となる。ただし、日本で緩和ケアが診療報酬上認められているのはがんと後天性免疫不全症候群(AIDS)のみであるため、本稿ではがん患者の緩和ケアについて取り上げたい。
帝京大学医学部附属病院の緩和ケアチームを率いる帝京大学医学部緩和医療学講座教授・診療科長の有賀悦子氏は、緩和ケアにおける健康の考え方を次のように話す。
「体が病気でも、心地よいと感じていたり、できる範囲で楽しいと感じられたりする状態は健康だといえます。一方、体は病気でなくても気持ちが沈み、生活が楽しくなければ健康とはいえません。がんと診断されても健康であることはできるのです」。
WHOは健康の定義を「肉体的・精神的・社会的に良好な状態にあって(well-being)、単に病気や虚弱ではないことにとどまるものではない」としている。多くの人は病気になると健康ではないと思いがちだが、WHOの定義に照らせば「病気や体が衰弱していること」=不健康とはいえないということだ。
こうした考え方を踏まえて、緩和ケアが目指すものについて有賀氏は、「人の価値観は多様であり変化していくもの。個々の患者さんがそれぞれの人生で自己の存在をありのままに実感できて、最期の時に後悔の少ない、よい人生だったと感じられるような支援をするのが緩和ケアの目標です。単に、痛みなど症状がないことが目標ではなく、患者さん一人ひとりのwell-beingを目指すことが大切で、それを支える一つの手段として、さまざまな症状の緩和に取り組んでいます」と説く。

基本的緩和ケアと専門的緩和ケア 患者への気配りも緩和ケアの一環

国のがん対策推進基本計画では、「がんと診断された時からの緩和ケア」が施策に盛り込まれている。これを受けて厚生労働省は、がん診療連携拠点病院でがん診療に関わる医師をはじめ、すべての医療従事者に向けて作成したリーフレットの中で、「がん緩和ケアは、がんの治療を終えてから行うものではなく、がんと診断された時からさまざまな場面で切れ目なく実施される必要がある」と呼び掛けている。
だが一方で、2016年5月よりスタートした「がん等における緩和ケアの更なる推進に関する検討会」(厚労省)の議論では、「医療従事者の理解不足で診断時からの緩和ケアの提供は不十分。国民も緩和ケアと終末期ケアを混同しその意義や必要性が十分に周知されておらず、身体的苦痛や精神心理的・社会的苦痛の緩和が十分に行われていないがん患者が3〜4割ほどいる」とされ、本来はがんと診断された時から実施されるべき緩和ケアが日本においては十分に実施されていないという問題が浮き彫りになっている。
有賀氏によると緩和ケアは、基本的緩和ケアと専門的緩和ケアに機能が大きく分けられる。医療従事者は、がん患者が痛みなどの困りごとを抱えている状態を把握し、それに対応する基本的なケアを徹底して行い、必要に応じて専門的な緩和ケアで患者を支える取り組みが求められている。
基本的緩和ケアとは、だれもがどこででも受けられる緩和ケアで、薬剤師も含めて患者に接するすべての医療従事者が備えていなければならない技術といえる。がん患者がよりよい状態で日々の生活を送り人生を全うできるように包括的に関わることがすべての薬剤師に求められ、「処方箋を受け取って薬を渡すだけではなく、薬の説明をしながら患者さんの様子を観察することが大切です。目線を合わせない患者さんや、表情が暗い患者さんには、『薬のことで何か心配なことはありませんか』、『夜は眠れますか』などと声をかけるように心がけてみてください」と有賀氏は助言する。医療用麻薬(オピオイド)について説明するときは、ほかの患者に聞こえないようにする気配りも緩和ケアの一環だという。
また、そのための基本的なコミュニケーション力が不可欠だ。主治医の前ではよき患者であろうとする患者も、薬剤師を前にすると本音が出ることもある。抗がん剤治療を受けている患者に、「手や足がしびれていませんか」、「ボタンはかけられますか」と質問してみる。痛みの細かな評価までできなくても、痛みの有無を推察することは可能だろう。痛みがあっても主治医に伝えていないことがわかれば、「次の外来では、指先にしびれがあることをぜひ先生に伝えてくださいね」、「そのとき治っていても、しびれがあったことは話してくださいね」と促したり、医療用麻薬の使用に不安を感じている患者には、「医師の処方で鎮痛薬として使う場合は、中毒症状などは一切ないので安心してください」などと一言添えることで患者との信頼関係を築ける可能性がある。
一方、こうした基本的緩和ケアで苦痛が緩和されなかったり、さらに専門的な知識や技術が必要になったり、他の専門職との連携が必要になったときは、緩和ケアチームや緩和ケア病棟の専門的緩和ケアの介入が必要になる。この専門的緩和ケアの一員としての薬剤師は、緩和ケアに関する薬物療法の専門的な知識や技能・態度を求められる。日本緩和医療薬学会では、緩和薬物療法認定薬剤師といった認定制度を設けている。有賀氏が関わってきた緩和ケアチームでも、学生時代から緩和ケアをサブスペシャリティーとして考えていた薬剤師やチームから離れても継続的に勉強を続けている薬剤師もおり、「素晴らしいです。育児などと合わせ、自分らしい人生の探求の一つとして専門的な道を目指す夢を持ってほしいです」。さらに、こうした薬剤師自身の葛藤や努力は、患者を理解する上でもとても大切だと有賀氏は話す。
このような基本的さらに専門的緩和ケアは、がんや治療から生じる症状緩和に加え、がん以外の部分の健康を維持・向上させるものであり、がんを手術で切除し、放射線で縮小させ、抗がん剤で再発を防ぐがん治療と並行して進められていく。がん患者ががん治療と緩和ケアという車輪をつけた自転車に乗って前進していくイメージだ。

根治後でも3人に1人が痛み 疼痛治療が不十分な人は8割

緩和ケアにおいては患者が訴えるさまざまな痛みの性質を理解することが大切だ。痛みは侵害受容性疼痛(体性痛、内臓痛)、神経障害性疼痛に分類され、がんの痛みは、「重い感じで場所がはっきりしない」(内臓痛)、「刺されたようにズキッとして、場所がはっきりしている」(体性痛)、「しびれるようにビリビリする、火傷のようにヒリヒリする、電気が走るようにビリッとする」(神経障害性疼痛)などと表現される。がんの痛みと一口に言っても、1種類の痛みが単独で存在することがあれば、複数の痛みが混在していることもあり、非がん性の痛みもある。痛みにはまた、持続痛(安静時痛)と一時的に起こる突出痛があり、パターンによって治療法も異なってくる。
痛みはがん患者の多くが経験する症状だ。海外のある報告では、抗がん剤治療中の患者の約6割で痛みが発生している。また、がんが根治した後にも関わらず患者の3人に1人が痛みを持っており、がんサバイバーでも痛みを抱えている人が少なからず存在することに留意が必要だ。その背景として疼痛治療が不十分な人が約6〜8割いることが明らかにされている。さらに、治療が必要な状態にもかかわらず疼痛治療に到達できていない患者が4人に1人の割合で潜在しているという(表1)。

表1 がん疼痛の発生頻度
転移・進行・末期の患者の 64%
抗がん治療中の患者の 59%
根治後の患者の 33%
最後の数か月に疼痛を経験する患者 83%
疼痛治療不十分 56〜82.3%
潜在的に疼痛治療を要する患者 25.3%
(範囲9.8〜55.3%)

ESMO Guideline. Ann Oncol. 2011, 22(Suppl 6) vi69-77

提供 有賀悦子氏

有賀氏は、患者が痛みを主治医に伝えることをためらう理由を次のように挙げている──①いつも痛いわけではない、②病院に行ったとき痛みがなかった、③どの程度の痛みなら伝えてよいかわからなかった、④以前からある痛みで、それががんの痛みだと思わなかった、⑤痛いというと麻薬が始まる。また、日本人には「痛みは耐えるべき」、「この程度の痛みで薬に頼りたくない」、「弱音を吐きたくない」といった信念で痛みを我慢する患者も少なくない。
一方、痛みを我慢し続けていると、図1-Bの状態となり、眠れなくなったり、不安・抑うつ状態を招いたりすることがある。すると痛みは修飾され、脳は痛みを強く感じるようになる。また、食欲が落ち、体力が低下し、睡眠も不十分だと、踏ん張りが利かず抗がん剤治療が十分に受けられなくなるおそれがある。このように「痛みの悪循環」に陥ると、鎮痛薬で解決できるだけの痛みに留まらず、痛みは増強・複雑化して、さらに多くの鎮痛薬が必要になることもある。

図1 医療用麻薬の作用(監修:鈴木勉 星薬科大学特任教授)
痛みがあると、医療用麻薬は脳のバランスを取り戻すように作用する

図1 医療用麻薬の作用

提供 有賀悦子氏

患者の痛みを正しく評価し、必要な鎮痛薬を適切に使うためには、患者の情報が拠り所になる。患者が痛みを上手に伝えれば、痛みの正体をより早く突き止め、適切な治療が可能になる。たとえば、痛みの強さを評価するスケールは何種類かあるが、NRS(Numerical Rating Scale)は0(痛みがない状態)〜10(これ以上ない最悪の痛み)の11段階で強さを表現することができるツールだ。ほかに、どこが痛いか(痛みの部位)、どのような感じの痛みか(痛みの性質)、持続する痛みか突出する痛みか、痛みが起こる頻度や時間経過による痛みの変化(痛みのパターン)、生活への影響(身体機能、社会機能、日常生活、精神状態への影響)などが医師に伝われば疼痛治療の戦略が立てられる。

■疼痛治療に使用される薬剤

現在、がん疼痛治療に使われている薬は、オピオイド、非オピオイド、鎮痛補助薬の3種類に大別される。
オピオイドは神経系にあるオピオイド受容体に結合し痛みの信号の伝達を妨げることで痛みの緩和に働く。オピオイドには、軽度から中等度の痛みに投与するオピオイド(コデイン、トラマドール、タペンタドール、少量のオキシコドンやヒドロモルフォンなど)と高度な痛みに投与するオピオイド(モルヒネ、オキシコドン、ヒドロモルフォン、フェンタニル、メサドン)がある。
非オピオイドには非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)とアセトアミノフェンがある。「ピリピリする痛み」「電気が走るような痛み」などの神経障害性疼痛には、三環系抗うつ薬、抗不整脈薬、抗てんかん薬などの鎮痛補助薬が併用される。
がんの痛みの治療では、「WHO方式3段階除痛ラダー」(図2)に従って、非オピオイド(第1段階)から有効限界のないオピオイド(第3段階)まで使っていき、各段階で必要に応じて鎮痛補助薬の併用を検討するのが原則になっている。突出的な痛みが出現したときには、各種速放性オピオイドをレスキューとして処方する。

図2 WHO方式3段階除痛ラダー

図2 WHO方式3段階除痛ラダー

提供 有賀悦子氏

医療従事者でも理解不足が多い オピオイドの効果と副作用

1987年にWHOは『がんの痛みからの解放』を発行した。オピオイドの上手な使い方が提唱され、多くのがん患者が痛みから救われるようになった。しかし、30年経過した現在も、患者ばかりでなく、医療従事者にもオピオイドの精神依存・中毒・耐性について先入観、偏見、認識不足があり、オピオイドの使用や増量を躊躇するケースがあるという。
依存とは、脳の報酬システムにおいてドパミンが放出され「快」に傾いた状態であることが知られている(図1-A)。痛みがない状態は「快」と「不快」がほぼ平衡状態にある。一方、痛みがある状態は「不快」が…

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