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女性ホルモンとがんの関係

2018年1月号
女性ホルモンとがんの関係の画像

日本人の死因第1位はがんで、毎年37万人以上ががんで亡くなり、その数は年々増加していま す。生涯を通じてがんになる確率は、男性が63%に対して、女性は47%です。がんの発症原因 についてはまだ分からないことが多いのですが、女性に多いがん、あるいは少ないがんなどの性差が生まれる背景として、女性ホルモンも関与していると考えられています。女性ホルモンとがんとの関連について、国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長 津金昌一郎氏に解説していただきます

がんの死亡率、罹患率に男女差

最新のがんの統計によると、2015年にがんで亡くなった人は37万346人(男性21万9,508人、女性15万838人)でした。また、2013年に新たに診断されたがん(罹患全国推計値)は86万2,452例(男性49万8,720例、女性36万3,732例)でした1)。死亡者、罹患者とも、男性が女性を大きく上回っています。
がんの罹患率について、54歳までは女性が高いのは(図1)、乳房、子宮、卵巣などの女性特有の部位のがんが多いことによります(図2)。男女共通の部位については、いずれも男性のほうがなりやすく、79歳までの罹患リスクは、食道(女性の5.7倍)、胃(同2.6倍)、肝臓(同2.3倍)、大腸(同1.6倍)でした2)。この累積リスクの差は、加齢に伴い肺では大きくなりますが、肝臓では小さくなるという傾向がありました。

図1 年齢階級別がん罹患率

図1 年齢階級別がん罹患率の画像

図2 女性の年齢部位別がんの罹患数と死亡数の割合

図2 女性の年齢部位別がんの罹患数と死亡数の割合の画像1
図2 女性の年齢部位別がんの罹患数と死亡数の割合の画像2

女性特有のがんのうち、女性ホルモンの一種、卵胞ホルモン(エストロゲン)の刺激によって増殖する、いわゆるホルモン感受性のがんが、乳がん、卵巣がん、子宮体がんです。比較的若年層に多い子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)への感染が原因とされます。
一方、女性ホルモンが予防的に働いているがんもあり、肝臓がんはその1つだと言われています。加齢とともに増加する大腸がんは、比較的男女差が小さく、生涯罹患率では、平均寿命の長い女性が男性に段々追いついていくという側面がありますが、女性ホルモンが予防的に効いていると考えられています。肥満は、大腸がん、とりわけ結腸がんの原因の1つになりますが、女性では内臓脂肪が蓄積しても女性ホルモンが作られることで、それが予防的に作用していると考えられていて、肥満との関連は男性と比べて小さいことが分かっています。

エストロゲン曝露の長さが乳がん急増要因

女性ホルモンと関係の深い乳がんについて、少し詳しく見てみましょう。
日本の乳がんの死亡率は、部位別がんの中では第5位となっていますが、罹患率では第1位となっています(図2)。
乳がんは近年急増しており、年間約9万人が新規に乳がんに罹患し、2014年には1万3,240人が亡くなっています。
乳がんの原因については、まだ十分に明らかになっていないこともありますが、日本で乳がんが増えている背景として、戦後、食生活が欧米化したことによって、体格が良くなり、女性の初経年齢が早まり閉経年齢が遅くなったこと、晩婚化・少子化で出産経験がない・または少なくなったことなどが挙げられます。これらに共通しているのは、乳腺細胞が女性ホルモン(特にエストロゲン)にさらされている状態が長い期間に及ぶということです。
妊娠のメカニズムもはっきりしていない点も多いのですが、妊娠中はエストロゲンが究めて高濃度になるので、できかけていたがん細胞がアポトーシス(プログラムされた細胞死)を起こすのではないか、あるいは、エストロゲンに拮抗する作用をもつ黄体ホルモン(プロゲステロン)も多く分泌されるからではないかなどが考えられています。妊娠経験がない人は、その点でリスクファクターが増えると考えられています。
閉経すると、女性ホルモンの分泌量は減少します。しかし、脂肪組織においては、閉経後も副腎皮質から分泌された男性ホルモン(アンドロゲン)をもとにしてエストロゲンが産生されます。このため、閉経後に肥満していると、エストロゲンも一定レベルを保つことになるので、それもリスクになるとされます。
喫煙と乳がんとの関係ははっきりと分かっていませんが、他のがんと同様に恐らくリスクであると見られています。日本は、女性の喫煙率が低い一方で、非喫煙女性の多くが受動喫煙の影響を受けている状況があります。喫煙者と受動喫煙の影響のない非喫煙女性を比較すると、喫煙者ではリスクが高くなったという報告があります。そして、受動喫煙については、特に閉経前の乳がんのリスクであるという数多くの報告があります。
一方、母乳を長期間与えることで、母親の乳がんリスクが低くなることを指摘する研究が数多くあります。これまでに日本において実施された8つの疫学研究の結果から総合的に判定すると、授乳が乳がんリスクを低下させる可能性があるとされています3)。国際的にも授乳の乳がん予防効果は確実視されています。初経年齢が早いことや初産年齢が遅いことなどは乳がんのリスクを上げる確実な要因ですが、出産後なるべく母乳で育てることは、子供のためになるだけでなく、母親の乳がんリスクを低下させることも期待できるとされます(表1)。
一方、子宮体がんもエストロゲンとの関係が深いがんであり、約8割はエストロゲンの長期的な刺激と関連していると考えられています。乳がんと違うのは、初経年齢の早さは余り強いリスク要因とはならない点で、むしろ閉経が遅くなったことの影響が大きいとされます。子宮体がんは、50歳代から60歳代の閉経前後の発症が多く、出産経験がないこともリスクになります。
また、経口避妊薬(ピル)との関係では、乳がんではリスクが上昇するのに対して、子宮体がんのリスクは下がることが知られています。

表1 生理・生殖要因とがん
エストロゲンなどの性ホルモンが、乳房、子宮体部、卵巣のがんの発生に重要な役割を果たしている。
リスク要因 リスクの高い人
乳がん 子宮体がん 卵巣がん
内因性エストロゲンレベル 高い - -
初経年齢 早い - -
閉経年齢 遅い 遅い -
出産歴(数) なし(少ない) なし(少ない) なし(少ない)
初産年齢 遅い - -
授乳歴 なし - なし

Adami HO, Hunter D, Trichopoulos D. Textbook of Cancer Epidemiology
Second Edition, 2008

ホルモン補充療法が乳がんリスクを高める

女性は、更年期を迎える前後から、エストロゲンとプロゲステロンの分泌量が急激に減少し、これに伴ってのぼせ、発汗、肩こり、頭痛、不眠といった様々な症状が現れます。特にエストロゲン減少の影響が大きく、これらのホルモンを錠剤や経皮吸収型製剤などによって外から補っていこうというのが、ホルモン補充療法(HRT: Hormone Replacement Therapy)と言われる治療です。
欧米では1960年代からHRTが行われていましたが、日本では90年代以降になって、HRTを始めとする更年期医療がようやく少しずつ広まっています。
米国では2002年、国立衛生研究所(NIH)によって、中高年女性の健康管理を目的としたWomen’s Health Initiative(WHI)という大規模な無作為化比較試験の結果が発表されました。この中で、閉経後5年以上にわたって女性ホルモンを投与した群と投与しない群を比べたところ、女性ホルモンに関係している乳がんは、投与した群で明らかに罹患率が高まることが分かりました。
外因性のホルモンは、内因性のホルモンに比べて、量が多いものを長期にわたって使用することが発がんリスクにつながるとされます。女性ホルモンには、心血管保護作用があることが知られており、WHIは元々それを補充して循環器疾患を予防できるかどうかを調べることを目的とした試験でしたが、その関係は明確にならず、むしろ乳がんとの関係が強調されるという結果になりました。
子宮体がんは、エストロゲン単独使用HRTにより、乳がんと同様にリスクが高まりますが、プロゲステロンを併用するとリスクは上がらないとされています(表2)。

表2 ホルモン剤とがん
ホルモン剤は、一部のホルモン関連がんのリスクを上げる一方、他の部位のがんのリスクを下げる。
  乳がん 子宮体がん 子宮頸がん 卵巣がん
経口避妊薬
(混合)
現在使用者は
リスク上昇
リスク低下 リスク上昇 リスク低下
経口避妊薬
(プロゲステロン)
関連なし
(研究少ない)
リスク低下?
(研究少ない)
- -
ホルモン補充療法
(エストロゲン単独)
リスク上昇 リスク上昇 研究少ない 関連なしか上昇か
(結果は不一致)
ホルモン補充療法
(併用)
リスク上昇 プロゲステロンの併用日数が月9日未満はリスク上昇(毎日ではリスク上昇なし) 研究少ない 研究少ない

IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. Volume 72: Hormonal Contraception and Post-
menopausal Hormonal Therapy. IARC Lyon 1999
IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. Volume 91: Combined Estrogen-Progestogen
Contraceptives and Combined Estrogen-Progestogen Menopausal Therapy. IARC Lyon 2007.

イソフラボン摂取は乳がんリスクを下げるか

食物によるがん予防についても同じようなことが言えます。
2003年に公表した多目的コホート研究(著者を主任研究者とする日本人約14万人を対象とした長期追跡調査)(http://epi.ncc.go.jp/jphc/   )においては、閉経後の女性では、大豆などに含まれるイソフラボンの摂取量が多い人ほど乳がんの発生リスクが低下するという結果が得られ、最大では70%低下していました。
イソフラボンは、化学構造がエストロゲンと類似しています。このため、イソフラボンが乳腺細胞のエストロゲン受容体に競合的に作用し、エストロゲンより先回りして結合することでエストロゲンの作用を弱め、これが乳がんのリスクを低下させるのではないかと見られています。また、イソフラボンは、男性においても前立腺がんの発がんリスクを下げるとする研究報告もあります。
しかし、やはり多目的コホート研究から導き出された結果では、イソフラボンの摂取は、肝臓がんのリスクを上げることが示されました。
食事内容から割り出したイソフラボンの摂取量によってリスクを検討したところ、女性では、摂取量が最多(1日あたり豆腐なら100g以上)のグループでは、肝臓がんの発がんリスクは、最少(同50g未満)グループに比べて最大3.9倍という結果でした。
これは、エストロゲンに肝臓がんを予防する作用がある可能性があるためで、肝炎ウイルス感染者の割合に男女差がほとんどないにもかかわらず、肝臓がんの発生率は女性のほうが男性より低いのは、それが原因の1つだという考えもあります。イソフラボンを摂取することで、エストロゲンの作用が競合的に妨げられる可能性があると見られています。
これらの結果から、乳がんのリスクが高い人は、大豆製品(豆腐、納豆、煮豆、油揚げ、みそなど)などを通じて、イソフラボンをバランス良く食事に取り入れることが推奨されます。一方で、肝臓がん患者の約8割を占める肝炎ウイルス感染者は、大豆製品の摂取について見直す必要があるかもしれません。
栄養成分は、基本的には食品から摂取することが望ましく、サプリメントはお勧めできません。というのは、過剰に摂取してしまう恐れがあり、食事では経験がないような血中濃度をもたらしかねないからです。
イタリアの研究では、閉経後女性に1日150mg(大豆イソフラボンアグリコン換算値)のサプリメントを5年間摂取させたところ、子宮内膜増殖症の発症が有意に高かったという研究結果が報告されています。このため、150mgを健康影響発現量として、その2分の1である75mgを安全な1日摂取目安量の上限値と定めています。日本では内閣府の食品安全委員会が、大豆イソフラボンの摂取量上限を1日あたり70~75mg(大豆イソフラボンアグリコン換算値)としており、豆腐半丁に相当する量と考えればよいでしょう。

薬による乳がんの予防は可能か

米国の女優、アンジェリーナ・ジョリーさんは、乳がんや卵巣がんの発症リスクが8~9割と高いBRCA1遺伝子の変異があることが分かったため、両乳腺を切除するという予防的手術を受けました。特定のがんについてのリスクが極めて高いと分かっている場合、発がんリスクと乳房切除の不利益を天秤にかけて、そうした決断もあり得るのかもしれません。
例えば、薬では、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)の1つであるタモキシフェンが、エストロゲン受容体陽性の乳がんの発症リスクを半減させられることが分かっています。
米国ではタモキシフェンを用いた乳がん予防の無作為化比較試験が、ハイリスク群(ゲイルモデルと呼ばれるリスク予測式により5年間の乳がん累積リスクが1.66%以上と推計された女性)を対象にして行われました(表3)。その結果、タモキシフェン投与群では、プラセボ群に比べて浸潤性乳がんのリスクが実に49%低下することが示されました。この結果を受けて、食品医薬品局(FDA)はタモキシフェンを、35歳以上の乳がん累積リスクが1.66%以上の女性に対する化学予防薬として認可しています。

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