専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

乳がん Part1 乳がん治療はサブタイプによって治療戦略を組み立てる

2018年8月号
乳がん Part1 乳がん治療はサブタイプによって治療戦略を組み立てるの画像
乳がんは女性のがん罹患数で第1位を占めるが死亡数は第5位である。乳がんは比較的おとなしいがんであり、局所治療である手術や放射線治療に加え、サブタイプ(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2蛋白、核グレードなどによる評価)やステージに合わせた標準治療を行うことが、予後の改善に寄与しており、罹患数に比べて死亡数が比較的少ない理由の一つである。近年は、がん増殖のメカニズムが分子生物学的に解明され、患者ごとにがん細胞の性質に基づく治療、すなわち個別化医療を目指す研究も盛んに行われている。今回は、聖路加国際病院乳腺外科副医長の竹井淳子氏に乳がん治療における個別化医療の実際について、同病院薬剤部の高山慎司氏には、乳がん薬物療法を行う患者への服薬指導について伺った。

Check Point

 乳がんは女性のがんで罹患数が最も多く、30歳代から増加し、40歳~50歳代がピークとなる
 乳がんの5~10%は遺伝性。
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)が代表的な遺伝性疾患であり、遺伝カウンセリングや遺伝子検査が可能な施設が増えつつある
 乳がんのサブタイプは5種類。サブタイプに応じた薬物選択を行う
 化学療法、ホルモン療法、分子標的療法が3大薬物療法。
それぞれの副作用対策が重要
 副作用の症状は患者によって多様であり、
患者との対話の中からふさわしい対策を考える

Part.1 乳がん治療はサブタイプによって治療戦略を組み立てる

乳がんの約8割は浸潤がん 乳がんは全身病である

国立がん研究センターのがん登録・統計によると、2017年の乳がん罹患者数は89,100人、死亡数は14,400人と報告されている。女性のがん罹患数全体の約20%を占め最も多い。患者数は30歳代から増加し、40歳〜50歳代前半がピークとなっている。乳がんは発生から臨床的に検出できるようになるまで5年以上と緩徐に増大するといわれているが、5年相対生存率は91.1%と予後がとても良いことがわかる。
乳腺は母乳をつくる小葉と母乳を乳頭まで運ぶ乳管に分かれ、約95%が乳管の上皮細胞から、約5%が小葉から乳がんが発生する。乳がんは、非浸潤がんと浸潤がんに分類され、約8割が浸潤性乳がんである。マンモグラフィを中心とした検診の普及で、非浸潤がんで発見される割合が増加してきている。
非浸潤がんは、がん細胞が乳管内にとどまっており、手術や放射線治療などの局所治療のみで治癒する。浸潤がんは、発見されたときには全身への微小転移を生じうる。このように全身病であることは、局所治療だけではなく、がん細胞の特徴に合わせてホルモン治療や抗がん薬治療、分子標的薬の全身治療が必要であることを意味する。聖路加国際病院乳腺外科副医長の竹井淳子氏は、全身病であることを患者に理解してもらうために、「見えるがんを取るのが手術と放射線ですが、浸潤がんの場合はリンパ節への転移が確認できなくても見えない種(微小転移)が残っていると考えて全身治療が必要なのです」と説明する。

エストロゲンへの曝露や遺伝性の要因 分子生物学的に増殖メカニズムも解明

乳がんの発生には女性ホルモンのエストロゲンが関与している。そのため、初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産経験がない、初産年齢が遅いなども、乳がんの発症リスクの要因とされる。
肥満やアルコールは、乳がん発症リスクを増加させ、授乳はリスクを低下させる。
また、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)のような、単一遺伝子に病的バリアント(変異)を家系内で引き継ぐために、乳がん発症ハイリスクである遺伝性腫瘍もある。
近年は、がん増殖のメカニズムが分子生物学的に解明され、患者ごとにがん細胞の性質に基づく治療、すなわち個別化医療を目指す研究も盛んに行われている。

早期発見にマンモグラフィ検診が有用

乳がんの検診では、マンモグラフィが導入されている。腫瘤のほかに、石灰化病変を拾い上げやすいことが特徴である。しかし、若年者では乳腺が発達していて(高濃度乳腺)病変が見つけにくいため、超音波検査(エコー)を用いることがある。
患者自身が症状に気づいて受診することも多い。気づきやすい症状として、乳房のしこり、乳房のエクボや発赤など皮膚の変化、乳頭からの血性分泌、腋窩リンパ節の腫れなどがある。生理前などの乳房の張りやすい時期を避け、月1回は自己触診を行って早期発見に努めることが大切だ。
乳がんの精査は、問診、視触診、マンモグラフィ、超音波検査で良悪性の可能性を判断し、確定診断は、細胞診や組織診など病理学的検査によって行われる。
サブタイプは遺伝子解析で分類するが、遺伝子検査は費用が高いことから、実際の臨床では、生検や手術で採取したがん細胞を免疫染色して調べ、臨床病理学的な解析によっていずれかのサブタイプ分類に当てはめる。

病期別の治療法とサブタイプ別の薬物選択

各病期の治療法は図1の通りだが、治療方針は病期のほか、全身状態、既往歴・併存症、患者の意思を総合的に検討して決定する。

図1 乳がんの臨床病期と治療

乳がんの臨床病期と治療の画像

国立がん研究センターがん情報サービスホームページを参考に編集部作成

局所治療として、かつては大胸筋からリンパ節まで広範囲に切除していたが、現在の標準的な手術では大胸筋を温存した上での乳房切除術と乳房部分切除術が行われ、乳房を切除しても再建術が保険適用されるなどQOLに配慮した治療が行われている。
リンパ節郭清も、術前の画像診断でリンパ節への転移がない場合は、術中にセンチネルリンパ節(がん細胞がリンパ管を通じて最初に流れ着くリンパ節)生検を行い、センチネルリンパ節に転移がなければ、それ以上のリンパ節の摘出を行わないことになっている。
しかし、浸潤がんの場合、術式にかかわらず微小転移の可能性を否定できないため薬物療法を施行する。
乳がんの薬物療法には、殺細胞作用をもつ抗がん薬による化学療法、エストロゲンの作用を抑制する内分泌療法(ホルモン療法)、特定機能分子の作用を抑制する分子標的療法がある。どのタイプの乳がんにも効果を発揮するのが化学療法で、そのKey Drugはトポイソメラーゼ阻害薬(アントラサイクリン系:ドキソルビシン、エピルビシンなど)と微小管阻害薬(タキサン系:ドセタキセル、パクリタキセルなど)である。ホルモン受容体(ER※1、PgR※2)を発現するタイプに対してはホルモン療法が有効であり、抗エストロゲン薬、LH-RHアゴニスト、アロマターゼ阻害薬などがある。また、HER2過剰発現タイプには分子標的薬の抗HER2抗体薬トラスツズマブなどが用いられる。
どの薬剤をどのように使うかはサブタイプと再発リスクを考慮して決定される。サブタイプごとの推奨療法を表1に示した。

表1 乳がんのintrinsic subtypeと代替定義および推奨療法
intrinsic subtype 臨床病理学的代替定義 推奨療法
luminal A
以下をすべて満たす
ER陽性かつPgR陽性
HER2陰性
Ki67低値
MGEAにて再発リスク低
大部分でホルモン療法単独
luminal B HER2陰性
ER陽性かつHER2陰性
 かつ以下のいずれかが
 該当
Ki67高値
PgR陰性か低値
MGEAにて再発リスク高
全例ホルモン療法
大部分で化学療法追加
HER2陽性
ER陽性かつHER2陽性 化学療法+抗HER2療法+
 ホルモン療法
erb-B2過剰発現 HER2陽性(non-luminal)
HER2陽性
ER陰性かつPgR陰性
化学療法+抗HER2療法
basal-like Triple negative
ER陰性かつPgR陰性
HER2陰性
化学療法

MGEA:multi-gene-expression assay

乳癌診療ガイドライン2015年版を参考に編集部作成

なお、薬物療法は、術前と術後に行う場合があるが、「乳癌診療ガイドライン2018年版」(日本乳癌学会、以下ガイドライン)によれば、「手術可能な乳がんに対して化学療法を行う場合、術前でも術後でも予後に関しては同等だが、術前に行うことによって乳房温存率は改善する」とある。竹井氏は、術前薬物療法を行う利点として、抗がん薬の奏効の評価ができること、術前薬物療法でがんが縮小した場合は全摘出を予定していた術式を部分切除に切り替えることも可能であること、完全奏効(pCR:Pathological Complete Response)を達成すれば予後が改善できることの3点をあげる。
術前薬物療法で病理組織学的にがん細胞のpCRが得られれば、その場合は再発もほとんどないといわれる。pCRが得られるかどうかはサブタイプによって異なる。ガイドラインには、術前薬物療法を行うと、「HER2陽性やトリプルネガティブのpCR症例はnon-pCR症例と比較して比較的予後が良好であった」と記されており、竹井氏は「術前の薬物療法で3割程度の患者さんでpCRが期待できます」と語る。トリプルネガティブとはER、PgR、HER2のいずれも陰性の乳がんで、予後は悪いとされる。
術後薬物療法の選択では、ホルモン療法の適応、抗HER2療法(分子標的薬)の適応、化学療法の適応の有無を判断して治療戦略が立てられる。例えば、手術と放射線療法の施行後にステージⅢAで、ER陽性、HER2陽性の場合は、HER2蛋白を抑制する分子標的薬と化学療法を施行したあとにホルモン療法を行うのが標準治療である(表1では、luminal B(HER2陽性)のタイプ)。

※1:エストロゲン受容体 ※2:プロゲステロン受容体

転移・再発乳がんの治療は延命とQOLの改善

転移・再発乳がんの治療は生存期間の延長とQOLの改善を目的として、患者の状態に合わせて治療法を選択する。
ガイドラインでは、閉経後のホルモン受容体陽性転移・再発乳がんに対する1次治療として国内初のCDK4/6阻害薬(パルボシクリブ)を併用することを推奨している。細胞周期に関与するサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6を阻害して腫瘍細胞の増殖を抑える働きがあり、ホルモン療法と併用される。2017年9月までで、世界70か国以上で承認されているが、90%以上の人に副作用が認められていることから、国内では慎重に使われている。
2018年7月2日より、がん化学療法歴のある「BRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」に対して、PARP阻害薬(オラパリブ)が承認された。コンパニオン診断として、アントラサイクリン系やタキサン系での治療歴後に使用する選択肢が増えた。合成致死を利用してがん細胞の特異的な細胞死を誘導する。使用する場合は、まずBRCA遺伝子を測定することになり、陽性であればPARP阻害薬が使用可能となるが、遺伝情報は家族にも影響すること(常染色体優性遺伝)、転移がんが悪化した場合に遺伝情報を本人以外の誰と共有するかなど、他の治療薬の検査とは違い、遺伝学的検査として事前に説明すべき点に配慮したい。

日本人も約1割が遺伝性乳がん

乳がんの5~10%は遺伝性と考えられている。遺伝子検査は保険適用外だが、遺伝カウンセリングと遺伝子検査を実施する医療施設は増えつつある。HBOCは、BRCA1/2遺伝子(がん抑制遺伝子)の生殖細胞系列の病的な変異が原因で乳がんや卵巣がんを高率に発症する。竹井氏によれば、日本人のデータでも欧米人と同様に病的バリアントを保有することが報告されており、乳がん患者の約1割がHBOCである。同病院は、NCCN(National Comprehensive Cancer Network)腫瘍学臨床診療ガイドラインの基準に合致した患者に対して、遺伝性乳がんについての情報提供を行っている。「患者さんが遺伝性かもしれないと考えるきっかけは乳がん診療の現場が多いので、まず、遺伝性腫瘍とはなにか、どのぐらい自分に関わる可能性があるかを知って頂くために、遺伝カウンセリングを案内しています」と竹井氏。
同病院では過去10年の間に、1,134人が遺伝カウンセリングを受け、645人(56.9%)が遺伝子検査を実施。このうち117人(18.1%)がBRCA1またはBRCA2が陽性だった。通常、乳がん患者の治療後の定期検査はマンモグラフィのみだが、年1回乳房MRIを行い、早期発見に努めている。BRCA1/2が見つかって、「予防的に乳房を切除する方は3割弱」(竹井氏)いるが、遺伝子検査を受ける患者の多くはすでに乳がんの治療を行っているので、切除するのは罹患していないもう一方の乳房である。発症していないが病的バリアントが確認され、HBOCと診断された患者の中には、両側の乳房を切除したケースも数例あり、「身内にHBOC患者さんがいて、遺伝子検査を行う方もいます。身近な方が大変な思いを共有して治療を行っている場合、予防的に切除を考えるきっかけになる方もいらっしゃいます」と竹井氏。
一方、卵巣がんについては、「早期発見の方法がないので、好発年齢である40歳代の方には、予防的に切除することを推奨しています」(竹井氏)。


NCCNガイドライン BRCA1/2, 検査基準
〈一部抜粋 2018 Ver.1〉

  • 45歳以下での乳がんの診断
  • 60歳以下でのトリプルネガティブ乳がんの診断
  • 卵巣がんの既往歴
  • 男性乳がんの既往歴
  • 近親者にすい臓がんや
    前立腺がん(グリソンスコア≧7)になった人がいる
  • 近親者に乳がん、卵巣がんになった人がいる

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