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患者に寄り添う薬剤師を目指して 「健康サポート薬局」に求められることとは?

2018年2月号
患者に寄り添う薬剤師を目指して 「健康サポート薬局」に求められることとは?の画像

超高齢社会となり、様々な医療制度の改革が迫られる中、薬剤師に対しても、2016年4月に「かかりつけ薬剤師」制度が導入され、さらに同年10月1日からは「健康サポート薬局」の届け出がスタートするなど、国民の健康に寄与する薬剤師の役割に期待が集まっています。しかしながら、かかりつけ薬剤師・薬局、健康サポート薬局、それぞれの機能や手続き・研修などについてまだあいまいな知識しか持たない薬剤師も少なくないようです。今号では「健康サポート薬局研修」をレポートし、今後の薬剤師に求められる技能や業務の意義について考えていきます。

Part1 「健康サポート薬局」研修事業について

「健康サポート薬局」誕生の背景 地域での活動をより積極的に行う薬局

2014年9月15日現在、日本の65歳以上の人口は3296万人で、総人口に占める割合は25.9%と高齢化が進んでいます。団塊の世代が75歳以上となる2025年以降は、国民の医療や介護の需要がさらに増加することが見込まれており、多くの高齢者が地域の身近な医療機関を受診したり、在宅医療や介護を受けたりすることが想定されています。そこで、厚生労働省は、重度の要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を推進しています。
そうした中、薬剤師には調剤や医薬品供給等を通じて、公衆衛生の向上・増進に寄与し、国民の健康な生活を確保する役割が求められています。しかしながら、薬局・薬剤師は地域で医療報酬に見合う働きをしているのか、患者本位の医薬分業になっているのかといった批判が起こるなど、薬剤師に求められている機能や業務などが必ずしも発揮されていないという現状が指摘されています。さらに、医薬分業率は上昇しているものの、医療機関の近隣に多くの薬局(いわゆる門前薬局)が乱立している現状も問題視されています。門前薬局は調剤に偏在し、OTC医薬品や医療・衛生材料を取り扱わない薬局が多くなり、昔のように住民が気軽にOTC医薬品の選択や健康に関する相談のために立ち寄るような存在になっていないという見解もあります。そんな中で登場したのが、「健康サポート薬局」です。かかりつけ薬局・薬剤師という制度がある上に、健康サポート薬局というものがなぜ構想されたのか。その背景を、日本保険薬局協会専務理事の皆川尚史氏(健康サポート薬局事業統括)はこう話します。
「厚生労働省は、様々な指摘に対して、薬局の活動を改めて見直し、仕組みを再構築して世の中にこれからの薬局はどうあるべきかをもう一度示す必要がありました。その1つは、すべての薬局がかかりつけ薬局、かかりつけ薬剤師を目指すことです。そしてさらに、今後は地域包括ケアシステムの中でその存在をより意義あるものにするために、地域の中での活動を積極的に推進できる薬局として、健康サポート薬局を位置づけようと考えたのだと思います」
一方で、飽和状態になりつつある薬局側の危機意識からのニーズもあったのではないかと、皆川氏は示唆します。
「厚生労働省に言われなくても地域の中でそうした機能を果たしていた薬局はありました。それが制度として全面的に打ち出されるのであれば、自分たちの活動の延長線上でやっていこうと考えた薬局・薬剤師が出てきても不思議はありません。健康サポート薬局については相互のニーズが合致したともいえるのではないでしょうか」

かかりつけ薬局・薬剤師と健康サポート薬局の位置づけは?

かかりつけ薬局とは、患者さんが毎回処方せんを持っていく薬局を1つに決める、自分専用の薬局ということであり、かかりつけ薬剤師とは、患者さんの服薬情報をすべて一元的・継続的に管理・把握している、いわば自分専用の薬剤師であるといってよいでしょう。かかりつけ薬剤師になるためには、保険薬剤師として一定年数以上の薬局勤務経験、当該保険薬局に週の一定時間以上勤務、当該保険薬局に一定年数以上の在籍、研修認定の取得、医療に係る地域活動への参画といった要件を満たす必要があります。
一方、健康サポート薬局は、調剤・服薬情報だけでなく、幅広く、健康相談、OTC医薬品の紹介、介護を含めた相談に応じることができる薬局ということになります。医薬品医療機器等法施行規則では、「患者が継続して利用するために必要な機能及び個人の主体的な健康の保持増進への取組を積極的に支援する機能を有する薬局」と定義されています。
「厚生労働省の『患者のための薬局ビジョン』(図1)では、すべての薬局がかかりつけ薬局になり、その上に健康サポート薬局があるという位置づけです。さらにもう1つ、がんの治療など高度な服薬指導をする高度薬学管理機能を持つ薬局があります。このビジョンを進めていこうということで、現在、研修などの仕組みが用意されています」(皆川氏)

図1 「患者のための薬局ビジョン」 〜「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ〜

「患者のための薬局ビジョン」 〜「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ〜の画像1

平成27年10月23日厚生労働省資料より

研修事業の概要は?システムとコンテンツが成功のカギ

健康サポート薬局の届出要件の1つが、「健康サポート薬剤師」の研修事業です。日本保険薬局協会は、他の2団体とともに2016年9月に研修実施機関として日本薬学会から確認され、研修事業を行ってきました。第1回目の研修会は2016年9月17日に東京で実施され、以降、2017年11月30日現在、通算110回の研修会を全国で開催しています。受講者は4,000人に達し、それらの方々に修了証が授与されています。皆川氏は、日本保険薬局協会の研修事業を構想段階から実施まで中心になって推進してきました。
「研修事業スタート時点では、このような実績を残せるとは予想もしていませんでした。もちろん、私たちは健康サポート薬局がどんなものかを理解していましたが、それによって経営がよくなる保証はありません。どちらかというと経営資源を投入しないといけない。当初、初年度は6~7か所での実施を想定し、システム開発経費400~500万円の赤字を覚悟していました。ところが、私どもの研修が、練り込まれた実践的内容であることが口コミを通じて薬剤師の皆様に広まり、かつ薬局改革に対する意識の高まりもあって、受講申し込みが急速に増えてきました。応募が増えるに従い開催場所も増やしていき、最終的に30~40か所で開催しました。今年度になってもほとんどの会場が満室の状態です。会場では毎回アンケートをとっていますが、実践に役立つ、今後勉強する方向がわかったなどの意見が多く寄せられました」
アンケートの内容は「現場で役立つ知識となったか」「内容を理解できたか」「資料のわかりやすさ」の3項目で、後述の編集部取材の研修についても、図2のように受講者の満足度が高い結果となっています。

図2 参加者アンケート(2017年11月 新神戸)

現場で役に立つ知識となりましたかの画像1
内容は理解できましたかの画像1
資料のわかりやすさについていかがでしたかの画像1

提供:一般社団法人 日本保険薬局協会

研修のプログラム作成にあたって、皆川氏らが重視したのはコンテンツとともに運営と実施管理の効率性だったといいます。
「研修の大まかな指示は国から出ていましたが、それをプログラムベースに落とし込むのは大変な作業でした。国の通知が出たのが2016年の3月。事前の情報が入った1月から準備をして、健康サポート薬局の届出が10月から始まることから、最初の研修を9月半ばに実施しました。コンテンツに関しては、主として17社の研修担当責任者が何度も集まり、企業の枠を超えて、集合研修とe-ラーニングの教材や講師マニュアルなどを短時間で作成、1回目の研修に結びつけることができました。一方で、受講者の進捗管理や資格管理、修了証の発行管理などのシステムを8月までに作り上げました。22時間のe-ラーニングと集合研修受講後、修了証が受講者に渡されます※。修了証が渡った薬剤師さんが薬局に帰って、なるべく早く健康サポート薬局になるよう、今度は地域の他職種と連携して実現を目指す。こうした一連の流れがスムーズにストレスなくいくようにするのが我々の務めだからです」(皆川氏)
国もこの研修制度の効用を認め、2017年10月に「薬局機能情報提供制度」の改正がなされ、2019年1月1日から、健康サポート薬局の届出にかかわらず、この研修を受けた薬剤師がいるかどうかを届け出ることになりました。すなわち「健康サポート薬局の届出の有無にかかわらず、健康サポート薬局に係る研修を修了した薬剤師の人数(常勤・非常勤にかかわらず実数)を記載する」ということになったのです。研修制度の目的が、健康サポート薬局の届出に必要ということだけでなく、薬剤師・薬局が地域包括ケアシステムの一翼を担うためへと広がってきたといえます。
「研修は5年以上の実務経験者が対象なので、受講者にとって研修自体がいろいろな気づきのきっかけになったり、新しい分野へのチャレンジのきっかけになったりします。実際、参加者からは、研修自体が新鮮だった、新しい知見や方法を学べた、地域との関係についても学ぶべきことが多かったなどの声が寄せられています」と皆川氏は話します。

※健康サポート薬局研修費用は、管理登録料6000円のみでe-ラーニングと一日集合研修費用は無料となっている。

Part2 健康サポート薬局集合研修の実際

研修は講義プラス演習が基本 グループ討論やロールプレイを重視

2017年11月某日、新神戸駅に近い会場で30人の薬剤師が参加して集合研修が開催されました。研修は朝の9時に始まり、18時まで続く長丁場です。参加者は6人ずつ5つのグループに分かれて着席し、そのテーブルを囲むように5人の講師が見守ります。まずは参加者の自己紹介から始まりました。
プログラムは、技能Ⅰ~技能Ⅲの3部に分かれています(図3)。技能Ⅰでは「健康サポート薬局の基本理念」について学びます。学ぶべき事項は、1.健康サポート薬局の概要、2.健康サポート薬局のあるべき姿に関する演習です。約10分間の講義の後、演習①~③が組み込まれています。演習①では、「健康サポート薬局とは」わかりやすい言葉で住民に説明してみよう。実は、これがなかなか難しかったりします。健康サポート薬局の要件は表1のようになっていますが、いかに内容や目的をシンプルに的確に説明するかが課題です。グループで討議した後、意見をまとめてグループごとに発表します。

図3 健康サポート薬局 集合研修プログラム(一部抜粋)
No. 研修名 研修形式 研修内容
技能Ⅰ 健康サポート
薬局の
基本理念
自己紹介 名前・出身(校)・薬局の状況・課題など
講義 健康サポート薬局の概要(理念・背景・制度・機能)
演習① グループ討議
全体発表
『健康サポート薬局とは』
〜わかりやすい言葉で住民に説明してみよう〜
演習② 個人演習
グループ討議
『社会ニーズと機能』
〜健康サポート薬局の機能を説明してみよう〜
演習③ 個人演習
グループ討議
『自薬局の今後の取り組み』
〜今後のあるべき姿を説明してみよう
技能Ⅱ 薬局利用者の
状態把握と
対応
講義 健康サポート機能
『地域医療における役割、適切な対応手順、等』
第1部 薬局利用者の相談内容から適切に情報を収集し、状態、状況を把握するための演習
演習① 個人演習
グループ討議
『基本的な症候』
〜腹痛を示す疾患を挙げてみよう〜
演習② グループ討議
ロールプレイ
『医療面接の標準的な手順と情報収集』
〜医療面接を実践してみよう〜
演習③ グループ討議 『収集した情報を生かすためには』
〜腹痛を示す各疾患の特徴を整理してみよう〜
演習④ グループ討議
全体発表
『来局者に適切に対応するためには』
〜腹痛の鑑別アルゴリズムを作成してみよう〜
〜昼食休憩〜
第2部 薬局利用者の状態、状況に合わせた適切な対応を行うための演習
演習⑤ グループ討議
全体発表
『適切な解決策の提案』
〜薬学的臨床判断プランを作成してみよう〜
第3部 薬局利用者の状態、状況に合わせた判断の実践
演習⑥ グループ討議
全体発表
ロールプレイによるケーススタディ(2〜3例)
〜来局者の状況に応じた対応をしよう〜
演習⑦ グループ討議
全体発表
『相談対応後のフォローアップ』
〜情報提供書による連携をしよう〜
講義 演習まとめ

一般社団法人 日本保険薬局協会資料より一部抜粋

表1 健康サポート薬局の要件

  1. かかりつけ薬局としての基本機能
    1. かかりつけ薬剤師選択のための業務運営体制
    2. 服薬情報の一元的・継続的把握の取組と薬剤服用歴への記載
    3. 懇切丁寧な服薬指導及び副作用等のフォローアップ
    4. お薬手帳の活用
    5. かかりつけ薬剤師・薬局の普及
    6. 24時間対応
    7. 在宅対応
    8. 疑義照会等
    9. 受診勧奨
    10. 医師以外の多職種との連携
  2. 健康サポートを実施する上での地域における連携体制の構築
    1. 受診勧奨
    2. 連携機関への紹介
    3. 地域における連携体制の構築とリストの作成
    4. 連携機関に対する紹介文書
    5. 関連団体等との連携及び協力
  3. 健康サポート薬局に係る研修を修了し一定の実務経験を有する薬剤師の常駐
  4. 個人情報に配慮した相談窓口
  5. 薬局の外側と内側における表示
  6. 要指導医薬品等、介護用品等の取り扱い
    1. 要指導医薬品等の取り扱い
    2. 専門的知識に基づく説明
  7. 開店時間
  8. 健康サポート薬局の取組み
    1. 健康の保持増進に関する相談対応と記録の作成
    2. 健康サポートに関する具体的な取組みの実施
    3. 健康サポートに関する取組みの周知
    4. 健康の保持増進に関するポスター掲示、パンフレット配布

厚生労働省資料より

演習②は「社会ニーズと機能」健康サポート薬局の機能を説明してみよう。勤務する薬局が実際に健康サポート薬局として取り組んでいる内容を整理する演習です。かかりつけ薬局の基本機能と健康サポート機能の一覧表が配られ、そこにチェックしていきます。
演習③は「できていないことについて、実施計画を作成する」です。演習②の結果を受けて、できていないことを整理し、自薬局の今後の取り組みを考えていきます。1人で考えるのは難しいことでも、グループで討議しながら考えていくと頭の中が整理されて理解が進みます。グループごとに熱心に話し合いが行われていました。

技能Ⅱ「薬局利用者の状態把握と対応」 基本的な症候について学ぶ

技能Ⅱで学ぶべき事項は、1.薬局利用者の相談内容から適切に情報を収集し、状態、状況を把握するための演習、2.薬局利用者の状態、状況に合わせた適切な対応を行うための演習です。約15分間の講義の後、演習①が始まりました。この日の課題は、「あなたは、おなかが痛いと来局し、OTCを希望されている方にどのように対応しますか?」です。
厚生労働科学研究費補助金事業がまとめた「薬局の求められる機能とあるべき姿」(表2)には、最適な薬物療法を提供する医療の担い手としての役割が期待される、後発医薬品の使用促進や残薬解消といった医療の効率化について、より積極的な関与も求められる、セルフメディケーションの推進などが挙げられています。

表2 薬局の求めれれる昨日とあるべき姿

  1. 最適な薬物療法を提供する医療の担い手としての役割が期待される
  2. 医療の質の確保・向上や医療安全の観点から、医療機関と連携してチーム医療に積極的に取り組むことが求められる
  3. 在宅医療
    地域における医薬品等の供給体制や適切な服薬支援を行う体制の確保・充実に取り組むべきである
  4. 後発医薬品の使用促進や残薬解消といった医療の効率化について、より積極的な関与も求められる
  5. セルフメディケーションの推進
    地域に密着した健康情報の拠点として積極的な役割を発揮するべきである
  6. 患者の治療歴のみならず、生活習慣も踏まえた全般的な薬学的管理に責任を持つべきである

厚生労働科学研究費補助金事業「薬剤師が担うチーム医療と地域医療の調査とアウトカムの評価研究」(主任研究者:安原眞人/東京医科歯科大学医学部附属病院教授薬剤部長)

薬のプロである薬剤師ですが、実は患者さんの訴えや症状から病気や疾患を推定することはあまり得意ではないといわれます。4年制のころの薬学部では「症候学」はほとんど学んでいないことも原因の1つと考えられます。薬剤師は、診断を下すことはできませんが、患者さんの訴えや症状からある程度病気を推察できないと、セルフメディケーションの推進や受診勧奨は難しいといえます。そこで、ここで学習するのは、患者さんの疾病を明らかにし、解決しようとする際の思考過程やその内容、患者さんに起こっていることを発見し、その内容や結果を予測する能力です。もちろん、これは「診断推論」ではなく、「薬学的臨床判断」です。
演習は、腹痛を訴える疾患を思いつくままできるだけ多く書き出すことから始まりました。次々と書き込む人、3~4個で止まって考え込んでしまう人などさまざま。途中から隣人やグループ内で相談してよいことになり、講師やファシリテーターも介入してアドバイスします。
次にそれぞれが列記した疾患名をグループで共有し、その中からグループで作業を進める代表的15疾患を選びます。このときのポイントとして、緊急性が高いもの、重症なもの、罹患者数が多いものを選ぶことが要求されます。そして、その15疾患の分類や疾患名、特徴を記入し、それを元に「腹痛の鑑別アルゴリズム」を作成します。書記、発表者など、それぞれの役割分担も決められました。この作成には45分ほどの時間をかけました。アルゴリズムを作成するには疾患をどのような条件で分類していくかが問われます。
グループごとで話し合いながら、「おなかのどこが痛むか?上腹部か下腹部か?」、「症状が急激に起こったか、慢性的に痛むか?」、「下痢や嘔吐を伴うか?」、「ストレスがあると痛むか?」などの、分類項目を挙げていきます。最初の分類を何にするのか、メモ書きされた内容をあちこち移動しながらまとめていきます。この日は5つのグループに分かれており、それぞれ個性あふれたアルゴリズムになりました(図4)。最後に、選ばれたグループの代表が参加者の前で、自分たちが作成したアルゴリズムについて発表しました。他グループの考え方を知ることで、新たな発見もあるはずです。

図4 グループ討議で作成された腹痛の鑑別アルゴリズム

グループ討議で作成された腹痛の鑑別アルゴリズムの画像

腹痛のほかにも、薬局窓口でしばしば来局者が訴える症候はいろいろあり、これらの症候についても同様な作業が必要であり、e-ラーニングで演習することができます。

患者さんの訴えから疾患をどう推察するか ロールプレイで実践

昼食休憩をはさんで、技能Ⅱの第2部が始まりました。ここでは、症候を訴える来局者・患者への薬剤師の対応を学びます。症候から病名、病態を推理する場合、もっとも重要なのが重症度を推定することです。生死に関わるような病態を見逃すことは絶対に避けないといけないからです。緊急性を要する「急性腹症」には、虫垂炎(急性)、急性膵炎、複雑性イレウス、心筋梗塞、腹部大動脈破裂(解離)、子宮外妊娠破裂、卵巣嚢腫茎捻転、腹膜炎などがあります。
このように、来局者の訴えから病名を推理して、すぐにでも救急搬送する必要があるのか、受診を勧めたほうがいいのか、OTC医薬品で対処できるのか、経過観察でよいのかなど、薬剤師は適切な対応を、責任を持って確実に実施できなければなりません。
受診勧奨が必要な来局者には、具体的に普段から連携する病院やクリニックなどの名前を挙げ、「こちらから一報を入れておくので、すぐに行ってください」などと素早い受診を促すことも強調されていました。OTC薬で対応したときは、その後の情報提供も大切です。飲んでもよくならない場合は重い病気の可能性もあるので、「必ず受診してください」と付け加えます。この演習では、医師が監修した「腹痛の薬学的臨床判断例」が紹介されました(図5)。

図5 腹痛の薬学的臨床判断例

腹痛の薬学的臨床判断例の画像

提供:一般社団法人 日本保険薬局協会

第3部は、腹痛を訴える患者さんに対するロールプレイです。代表のグループが薬剤師役、講師が来局者役になって、実際の対応を実践します。たとえば「胃が痛いからガスター10をください」とOTC薬を指名し来局した人に対する対応。これまでに整理した症候の特徴などのメモを見ながら薬剤師役がいろいろ質問し、病名を推定していきます。痛みの場所や程度などだけでなく、会社でのストレスの有無なども大事な情報となります。薬剤師役は交代で次々と質問していきますが、なかなか病名の推定にたどりつけません。結局、げっぷが出るということで逆流性食道炎を疑い、来局者の求めに応じて、ガスター10を販売しました。ところが、実際に想定された症候名は「十二指腸潰瘍」。職場でのストレスがカギになったようです。このロールプレイを見ているだけでも、症候名の特定はかなり難しいことがわかります。講師の人は、「ガスター10を売るときには、ただ売るだけでなく、痛みが引かなかったら受診しましょうと一言付け加えるといいでしょう」とアドバイスしていました。
技能Ⅲでは、「地域包括ケアシステムにおける多職種連携と薬剤師の対応」について学びます。地域包括ケアシステムは地域ごとに異なる「ご当地システム」ともいわれます。ここで学ぶべき事項としては、1.地域包括ケアシステムにおける当該地域の医療・保健・介護・福祉の資源と役割の現状、2.地域包括ケアシステムの中で健康サポート薬局としての役割を発揮するための各職種・機関との連携に関する演習が挙げられています。演習は、どのような地域で就業しても地域包括ケアシステムの中で活動できることが目標です。
研修は9時間にも及び、その後は修了証・認定カードが交付されます。研修はこの集合研修と22時間のe-ラーニングの受講が義務づけられていますが、どちらを先に受講してもよく、最終的に両方を終了したときに修了証が手渡されます(有効期間は6年)。

健康サポート薬局研修の意義と課題 地域の中のニーズは?

 研修の受講者が順調に増加している一方で、さまざまな課題も浮き上がってきています。前出の皆川氏は言います。
「これからの薬剤師には、服薬指導や調剤に加え、かかりつけ医、介護職などとの連携が必要です。研修の内容にもそのことが盛り込まれています。薬剤師自身も、従来の殻を破らないといけないと思っている人が多い。ただ、現実的に地域の中でどういうニーズがあるか。今はちょうど切り替えの時期なのかもしれませんが、研修を受けて地域に戻ってもニーズがないということも考えられます。他の医療関係者や介護職の人たちに受け入れてもらえるのかという問題もあります。課題は山積していますが、継続していかないと薬剤師の未来は開けないと思っています」

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