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臨床推論のススメ:発熱患者の場合

2019年11月号
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発熱は、非常に身近な病態で、医療用医薬品としてのNSAIDsや各種抗菌薬、また一般用医薬品も含めると非常に多くの医薬品が発熱治療に使用されています。今回は、日々の臨床で数多くの発熱患者の診療に携わる東京医科大学病院感染制御部・感染症科副部長の中村 造氏に、発熱にまつわる疾患鑑別のポイントなどについてお話を伺いました。明日からの薬局 での臨床推論のきっかけにしていただければと思います。

発熱に関連するバイタルサイン 呼吸回数の確認は薬局でもできる

 一般的には、体温が37℃を超えると「熱がある」と表現することが多いと思います。しかし、正常時の体温は年齢などにより個人差があり、体温測定する部位や方法によっても変化します。腋窩温37.5℃程度までは正常時でもみられますので、37℃を超えているからといって必ずしも異常というわけではありません。では、どのようにして発熱の原因疾患を鑑別し、その危険性や緊急性の高さを見分けるのでしょうか。医師の臨床診断では、発熱を訴える患者さんに対して、まず血圧や呼吸回数、脈拍などのバイタルサインをチェックし、危険性や緊急性の高さを確認します。

血圧

血圧の急激な上昇や低下を伴う発熱は、大動脈解離や敗血症など危険性の高い状態の可能性があります。血圧測定器のある薬局では、発熱の患者さんに血圧測定を勧めることは有用です。

呼吸回数

正常時の呼吸は静かで規則正しく、回数は14~20回/分と言われています。呼吸回数は、その人の胸より上の部分(胸元や肩、鼻や口元)をじっと観察することで、相手に尋ねなくともカウントできます。30秒間の呼吸回数を数えて2倍することで、1分間の呼吸回数を算出します。呼吸が上がっている場合、一過性のかぜ症候群ではなく危険性の高い疾患の可能性が高まると言えます。特に、呼吸回数が30回/分以上の場合は重症が示唆されますので注意が必要です。
呼吸回数のチェックは、慣れれば会話をしながらでもできるようになりますが、薬剤師さんの多岐にわたる業務の中ではじっくりと30秒間も観察する余裕がない場面もあるでしょう。より簡便な方法としては、患者さんが話している最中の息継ぎの確認がお勧めです。走った直後のように、1つの文を話し切れずに息継ぎをしてしまうのは、呼吸回数が20回/分を超え異常をきたしているサインととらえます。

脈拍数

発熱と脈拍は相関することが多く、体温が0.55℃上昇すると脈拍が10回/分上がると言われています。病院やクリニックでは、脈拍数はパルスオキシメーター (サチュレーションモニター)などの機器を使用することが一般的となっています。ただし、これは薬局共通の常備アイテムではないでしょうから、脈拍数の確認は病院やクリニックに委ねた方が賢明と考えます。

バイタルサイン以外の重要な確認事項 食欲低下は危険なサイン

食欲

意外に思われるかもしれませんが、食欲の確認は非常に重要です。食欲の低下が栄養やエネルギーの不足をもたらすという意味はもちろんですが、食欲には血圧も関連していると考えられているのです。人間は、血圧が低下している危険な状態を動物的な本能で「敵から逃げなければならない緊急事態」として認識します。その結果、心臓や筋肉、脳など「身体を動かす」ための臓器への血流量が増加する一方で、腸管への血流量は少なくなります。そのため、腸の働きが低下し、結果的に食欲がなくなると考えられます。こうした原理から食欲は危険性や緊急性の高さを示唆するファクターと言えます。発熱に食欲低下が伴う場合はハイリスクの疾患の可能性を考える必要があり、逆に発熱はあるが食欲もあるといった場合は、危険性や緊急性が低いケースが多いです。

睡眠

食欲と同じように、人間の根源的欲求である睡眠欲が満たされていることは重要です。通常のように眠ることができずに発熱がある場合、危険性・緊急性は高まります。薬剤師さんと患者さんの会話でも聴き取りやすい内容だと思いますので、ぜひ確認していただきたいです。

上気道症状(特に鼻水)

上気道症状の有無も危険性や緊急性の高さを知る指標の1つです。発熱以外の症状が、鼻水やくしゃみ、咽頭痛といった上気道症状のみの場合、基本的には危険性や緊急性が低いと考えられます。鼻水やくしゃみがなく咽頭痛と発熱のみの場合、急性喉頭蓋炎という可能性はありますが頻度はごくまれです。発熱に上気道症状のみという病態は、病院やクリニックを受診しなくともおおむねセルフメディケーションの範囲で治癒可能です。特に鼻水がある場合は、その傾向が強いと考えて差し支えないと思います。

ここまでを踏まえ、発熱患者さんに対する重要な確認事項を、薬局で実施可能なレベルとして表1にまとめます。

■表1 発熱における危険性・緊急性のチェックリスト
以下の項目のうち、1つでも当てはまる場合、病院・クリニックの受診を勧める。
 発熱持続期間が1週間以上である。
 呼吸回数が1分間に21回以上である。
 明らかに食欲が減少している。または、食欲はあるが食事が喉を通らない。
 睡眠があまりとれていない。
 上気道症状(特に鼻水)がみられない。

※後期高齢者や小児などでは、上記に当てはまらない非典型例もある。
中村氏の話をもとに編集部作成

発熱と諸症状から考える疾患鑑別

疾患鑑別の上では、前提として頻度が高い疾患を認知しておくことが大切です。私は感染症科で、急性咽頭炎(急性扁桃炎を含む)、肺炎、尿路感染症(前立腺炎、腎盂腎炎)、ウイルス感染症(インフルエンザウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルスなど)の患者さんを数多く経験してきました。発熱をきたしている場合、これらの頻度が高いことを前提に鑑別を進めることになりますが、診断では発熱に伴う諸症状がキーになります。ここからは、症状ごとに考えられる疾患の可…

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