
2017年9月、厚生労働省は、各都道府県知事に対して医政局長名で「情報通信機器(ICT)を用いた死亡診断等の取扱いについて」*1の通知を出し、ガイドラインを公表しました。
これにより、看護師が医師の指示を受けながら、タブレット端末のテレビ電話などを通じて死亡確認し、死亡診断書を代筆できるようになります。
背景や仕組みの詳細を解説します。
超高齢時代の多死社会で迅速な死亡診断書を発行
医師法においては、死亡診断書を交付する場合には、医師が自ら診察することを義務付けています。しかし、日本では世界に類を見ない超高齢化が進展して「多死社会」を迎えつつあり、在宅で看取りをスムーズに行うことが求められていました。
厚生労働省の人口動態統計によると、2016年には約130万7748人が亡くなりました。死亡者数は今後も増加すると予想され、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計では最も年間死亡数の多い2040年には3割増加して約167万人になると予測しています。これにともない在宅における看取りの件数も増えると見込まれます。遺体の埋葬や火葬のためには死亡診断書が必要ですが、とりわけ地方においては、過疎と高齢化のために地域の医療資源の枯渇が進み、医師が遠方にいるなどで死亡診断が遅れ、死亡診断書の円滑な発行ができないという現実を直視せざるを得ません。
離島などの僻地においては、医師による死後診察が困難なために、死亡診断書が出るまで遺体を長時間保存せざるを得なかったり、医師のいる場所まで長距離を救急搬送したりするケースもあります。一方で、死期が近づくと住み慣れた地域から離れた病院に入院させるというケースもあります。在宅医療が進むにつれ、今後は都市部においても、医師がすべての在宅患者の死亡を直接対面で診断することが困難になると予想されています。
2016年6月、こうした状況を改善しようと政府は、看護師による確認で、死後24時間経過後も医師が死後診察なしで死亡診断書を交付できるようにすることを盛り込んだ規制改革実施計画を閣議決定しました。
規制改革実施計画では、ICTを活用した死亡診断などを行うためには、以下の5要件をすべて満たすこととされました。
- 医師による直接対面での診療の経過から早晩死亡することが予測されていること
- 終末期の際の対応について事前の取り決めがあるなど、医師と看護師と十分な連携が取れており、患者や家族の同意があること
- 医師間や医療機関・介護施設間の連携に努めたとしても、医師による速やかな対面での死後診察が困難な状況にあること
- 法医学等に関する一定の教育を受けた看護師が、死の三兆候の確認を含め医師とあらかじめ決めた事項など、医師の判断に必要な情報を速やかに報告できること
- 看護師からの報告を受けた医師が、テレビ電話装置等のICTを活用した通信手段を組み合わせて患者の状況を把握することなどにより、死亡の事実の確認や異状がないと判断できること
これを受けて、厚生労働科学研究費で「ICTを利用した死亡診断に関するガイドライン策定に向けた研究」*2(代表者:大澤資樹氏・東海大学医学部基盤診療学系法医学教授)が進められました。
規制改革実施計画で示された要件を具体的な運用の手順等に落とし込み、「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」が作成されたのです。